暗黒政権
「検察カルテルが跋扈している」と語るのは野党第1党・共に民主党元代表の宋永吉氏だ。宋氏が続ける。
「尹大統領は崔順実ゲート捜査の副官であった韓東勲氏を法務部長官に据えただけではなく、検察出身者を各機関にあまねく配置している。検察幹部も同様に『尹錫悦師団』と呼ばれる検事たちが主要ポストを独占している。そこで何が起きたのかというと、李在明氏(共に民主党代表)への捜査に代表される政敵の弾圧、政権に批判的なメディアへの強制捜査など、権力の乱用であり専横なのです」
野党の大物であった宋氏自身も、検察から共に民主党代表選を巡る不正嫌疑で捜査を受けた。捜査を巡り宋氏は「現検察は証拠捏造の達人だ!」と攻撃し、韓法務部長官が「質の低い怪談」と応じるなど、激しい舌戦を繰り広げ、韓国メディアで話題となった。
「公式選挙ではない党内選挙の捜査は前例がなく、極めて政治的な捜査です。邊氏については保守と進歩(革新)という立場の違いはありますが、彼の主張は合理的だと感じた。しかも尹氏側からはこうした問題提起に対して明確な反論が出来ていない。つまり尹氏らは捏造で犯罪を作ることを昔から行なっていたということなのです」(宋氏)
尹政権の誕生により検察権力が強大になっていることについて宋氏は「暗黒政権」だと批判する。前出の邊氏は、こう語気を強める。
「尹氏が大統領候補になったとき、保守陣営は正気ではないと思いました。彼は検察時代に保守系大統領だった朴槿恵を追い落とし、保守言論人を200人近く刑務所送りにした。『金大中や盧武鉉を尊敬している』と語ったこともある。何が本当なのか、実体が見えない信用ならざる人物なのです。私は捏造捜査を行なった尹大統領の追及をこれからも続ける。それで刑務所送りになったとしても構わない」
韓国内でくすぶる“朴槿恵冤罪捏造”疑惑。尹政権と緊密な関係を築く岸田文雄首相の外交戦略にも、大きな影響を与えそうだ。
【プロフィール】
赤石晋一郎(あかいし・しんいちろう)/ジャーナリスト。「FRIDAY」「週刊文春」記者を経て2019年よりフリーに。近著に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)。『元文春記者チャンネル』をYouTubeにて配信中。
※週刊ポスト2023年12月22日号