一審の無期懲役判決が二審で逆転無罪になった「ロス疑惑」事件、一審・二審での有罪が最高裁で逆転無罪(2009年)となった電車内痴漢事件など、福崎裁判官が過去に関わった裁判を記者が一つひとつ検証し、本人に質問をぶつけるやりとりが最大の見どころだ。
福崎氏は余計なことを一切言わない。だが、核心に触れる質問になると表情が変わる。ごまかさず誠実に短い言葉を返す。「人を裁く」という裁判官の本質を表すシンプルな言葉の数々だ。記者と元裁判官の言葉の応酬はまるで法廷劇を見ているかのようだった。
司法の最前線での真実を見せるドキュメンタリー。YouTubeだからこそ、筆者もところどころ再生を止めて視聴した。考えながら見ていくと知的なスリルあふれた「リーガルもの」の作品になっている。前述した記者と元裁判官との言葉の応酬に注目してぜひ見てほしい。
番組は50分近い長尺にもかかわらず、公開から約1か月の再生回数は60万回を超える。関西テレビに限らず、ドキュメンタリーをYouTubeで無料公開する動きが民放テレビで広がっている。そうした中でこの『ザ・ドキュメント「逆転裁判官の真意」』の健闘はドキュメンタリーの新たな可能性を示している。
【プロフィール】
水島宏明(みずしま・ひろあき)/1957年北海道生まれ。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」前編集長。近著に『メディアは「貧困」をどう伝えたか 現場からの証言:年越し派遣村からコロナショックまで』(同時代社)、『内側から見たテレビ─やらせ・捏造・情報操作の構造─』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)。