弁護士記者による「法廷サスペンス・ドキュメンタリー」
制作の中心になったのは関西テレビに社内弁護士として入社し、その後、自ら希望して報道局に異動になった上田大輔記者だ。記者に転じてからは「えん罪」事件のドキュメンタリーを制作している。
彼が追ったのは福崎伸一郎元裁判官。退官するまでの1年半、大阪高裁の裁判長として35件の一審破棄判決を出し、そのうち7件が逆転無罪判決だったという。
日本の裁判で二審は事後審と呼ばれ、一審の裁判が適切に行われたかどうかチェックするのが役割で、通常そこで新たな証拠調べは行わない。日本の刑事裁判の有罪率は99.83%。起訴されたらほぼ有罪となる日本で、一審で無罪判決が出ること自体まれだが、二審での逆転無罪はもっと難しいと言われる。
そんな中での福崎裁判官の一審破棄判決と逆転無罪判決の多さは日本の刑事裁判でも異例だ。異例の判決を連発した福崎裁判官は2017年当時、週刊誌の記事でも取り上げられた。なぜ彼はこうした判決を連発したのか。『逆転裁判官の真意』はその謎に迫る法廷サスペンス・ドキュメンタリーだ。
前述したドラマ『イチケイのカラス』スペシャルでは、竹野内豊演じる入間みちおが、何かを隠したまま罪を被って有罪になろうとする被告人に向かい、裁判官として法廷でこう述べる場面がある。
「私は真実を知っている被告人に判決を言い渡さなければいけない。被告人を裁いているように見えて、実は私も裁かれる。それが裁判です」
『逆転裁判官の真意』で上田記者がインタビューしたある元裁判官も、「裁判官」という職業は「人を裁く」のと同時に「自分を裁いている」という発言をしていた。では、福崎元裁判官は自分の何を裁いてきたのだろうか。