政治とカネの問題は捜査を待つのではなく、政治サイドが自浄作用を働かせて解決しなければならない。20年前、社内で「政治部じゃなく社会部の仕事だ」と言われながらも、派閥のカネの問題を追及したのも同じ認識からだった。
もうひとつ、一連の記事から汲み取らなければならない事実がある。現在の安倍派の事件は一部で指摘されているように「安倍1強」が招いたものではないということだ。派閥とカネの問題は安倍氏が首相に就任するはるか前から起きていた。
現在の派閥は、本来の派閥とは別物だ。自民党結党直後の派閥は「首相を目指す領袖と、その領袖を首相にしたい議員の集団」というシンプルなものだった。
現在の派閥は必ずしも領袖を首相にするためのものではなく、所属議員がポストとカネを分配してもらうためのものになっている。岸田首相が制した2021年の総裁選では、支援する候補を一本化できない派閥が多かった。
今の派閥は“もどき”
1970年代に派閥が代替わりし、三角大福中という派閥政治の絶頂期を迎えたが、田中角栄・元首相が率いた田中派が候補を出さず、他の領袖を支援、勝利させ、生殺与奪を握ることで二重権力体制を築いた時期に派閥のあり方が大きく変容した。
さらに代替わりし、「領袖のための集団」から「集団のための領袖」という本質の倒錯が起き、カネとポストの配分という手段が目的化した。「今の派閥は、派閥ではない」と2008年の自著『「次の首相」はこうして決まる』で指摘したが、それから15年あまりが経過した。政治家もメディアも「派閥もどき」を派閥とみなすようになって久しい。
そんな派閥であれば解体しても政治が成り立たなくなるなどという心配はいらない。ポストとカネの配分なら他の方法で代替できる。
今回の事件を受け、政治資金規正法など罰則強化が叫ばれているが、行き過ぎれば政治活動の自由が損なわれかねない。自民党の国会議員は政治のあり方自体が問われていることを認識すべきだ。
【プロフィール】
柿崎明二(かきざき・めいじ)/1961年、秋田県生まれ。帝京大学教授。早稲田大第一文学部卒。共同通信社政治部記者、編集委員、論説委員などを歴任。2020年10月から2021年10月まで菅義偉内閣の首相補佐官を務めた。2022年4月より帝京大学法学部教授。著書に『「江戸の選挙」から民主主義を考える』(岩波書店)などがある。
※週刊ポスト2024年2月2日号