「テレビがいつも優しいと思うなよ」
SNSの普及や見逃し配信の整備は、竹村らの追い風になっている。
「面白いやつはもちろんですけど、変なやつもバズるようになりましたよね。SNSで一つ風向きが変わりましたし、そういうものも少しやりやすくなった。昨今はみんな“笑えるか・笑えないか病”になってしまっていて、“面白い=笑い”だったんですよね。それで失われてしまった面白さがあるような気がするんです。もっといろんな面白さがあっていいじゃんってこと。
どうしても笑わせなきゃいけないみたいな強迫観にとらわれがちですけど、別に笑わせなくてもいいのではないかと思います。極端に言えば、どこかで見たことがあるような番組を作るんだったら、奇をてらったほうがいいじゃんとさえ思いますね。
テレビがいつも優しいと思うなよと。僕らが90年代に見ていたテレビって、品行方正ではない、うさんくさい親戚のおじさんが写ったテレビがいっぱいあった。“なんなんだこの人、何言ってんだだろう?”みたいなのがいっぱいあって、そこが面白かった。でも今は学級委員みたいな番組ばかりになっている状態なので、そういうわけがわからないおじさんがいてもいいじゃんと思うんですよね」(竹村)
2024年新作映画では野木亜紀子とタッグ
山下敦弘は2023年、宮藤官九郎と組んだ劇映画『1秒先の彼』が公開され、2024年1月には和山やまの同名の人気マンガを原作にした『カラオケ行こ!』が公開中だ。こちらはドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京)以来、野木亜紀子と組んだ作品だ。
「映画とドラマとで野木さんのシナリオの感触が違う感じがしましたね。ドラマの時は言葉の情報量がすごくて、それをそのまま撮って編集で繋げると面白くなるように野木さんが全部計算されていた感じ。普通の連ドラは初めてだったから、こうやって引きを作って次の回に繋げていくんだっていうのを教えてもらった。
だから野木さんは連ドラの師匠ですね。映画の脚本は逆にこちらに寄せてくれているとうか。余白というか隙間を残してくれていて、こちらに選択肢を増やして委ねてくれている感じがありました」(山下)
主演は綾野剛。仕事としては『山田孝之の東京都北区赤羽』以来となる。『赤羽』では山田に呼び出され、そのおかしな言動を綾野は優しい眼差しで見守っていた。
「あれを1本目だとすると確かにそれ以来ですね(笑)。綾野くんは粘ったりこだわったりするけど、すごく純粋だなって思いましたね。映画全体のことを考えてくれている。その真面目さ、正直さが憎めない。すごく人間的な魅力のある人だなって改めて思いましたね」(山下)
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
竹村武司(たけむら・たけし)/放送作家。1978年生まれ。広告代理店での勤務を経て放送作家に。『山田孝之の東京都北区赤羽』『山田孝之のカンヌ映画祭』『緊急生放送!山田孝之の元気を送るテレビ』(テレビ東京)、『植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之』(Eテレ)などの山田孝之出演作品や『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)、『秀吉のスマホ』(NHK)などジャンルを問わず幅広く手がける。
山下敦弘(やました・のぶひろ)/映画監督。1976年生まれ。『リンダ リンダ リンダ』で商業映画デビュー。『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』『味園ユニバース』『ハード・コア』など次々と話題作を手がける。最新作の『カラオケ行こ!』が公開中。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
撮影/槇野翔太