こうした過ちを繰り返さないための最良の手段は、電鉄と球団という本来は「水と油」を経営的に切り離すことだろう。球団は野球の専門家に経営させることだ。あたり前の話だが、それが出来ていないところに問題の本質がある。アメリカのメジャーリーグに所属する球団は単にファンを楽しませるだけで無く、組織として社会に貢献している。その観点から言うなら、甲子園球場は一刻も早くドーム化されるべきだろう、高校球児の健康を守るために、である。次の対談を御覧いただきたい。

〈玉木 私はスポーツライターとして40年以上、高校野球を批判してきました。それは高校生の部活動をプロスポーツのように扱うのは間違いだと思うからです。そこへ小林さんが、小生の批判よりも過激な「甲子園大会廃止論」を言い出された。その真意は?
小林 直接的には夏の暑さです。真夏の炎天下で野球をやるのは、やはりおかしい。NHKの画面に《熱中症危険。野外での運動はやめましょう》と文字の流れる中、高校野球だけ例外なのか? 3年前、コロナ禍の前年に甲子園球場で取材した際に、高野連(日本高等学校野球連盟)の方に案内され、専任のトレーナーが試合の前後に選手たちにストレッチを徹底させているとか、凍らせたペットボトルを用意しているとか、扇風機やエアコン、ミストの装置を据え付けたとか、涙ぐましい暑さ対策を見せてもらった。何が何でも真夏に大会をやりたいことが分かりました。(中略)
玉木 高校野球に「教育」を持ち込んだのは1911(明治44)年に東京朝日新聞が『野球と其害毒』というキャンペーンを1カ月以上にわたって続けた結果です。新渡戸稲造や乃木希典などの執筆陣が、野球は巾着切り(スリ)のようにベースを盗もうとする、程度の低いゲームだ、ボールを手で受ける振動で脳を悪くする……などと野球を非難した。ところが反論する新聞社も現れて大論争になり、結果的に野球人気が急上昇。そこで大阪朝日新聞が15(大正4)年に全国中等学校野球選手権大会(現在の夏の甲子園大会)の開催を決めた際、今度は社説で野球が優れて教育的なことを力説。さらに、試合開始時に両チームがホームベースを挟んで礼をすることを決めたり、優勝校にコンサイス英和辞典を贈るなど、「教育的な野球」を強調したのです。〉
(『ZAITEN』2022年9月号 玉木正之vs.小林信也スポーツ対談「高校野球 夏の甲子園大会廃止せよ」)

 補足すれば、朝日新聞が戦前の「国民は艱難辛苦に耐えるべし」という軍国主義興隆の風潮のなかで「炎天下の全試合を一人で投げ切ったエース」などと持ち上げる記事を次々に書いたものだから、甲子園ではそんな無理な完投が長い間常識となってしまった。たとえば先発ピッチャーに投球制限を設ければ、監督も複数のピッチャーをローテーションで起用することを考えざるを得ず、多くの生徒が参加できるから結局教育効果も高いと思うのだが、こういう議論はまったくなされずに有望な選手が次々に潰されてきた。

 ほかの面ではこういう事例にきわめて敏感な朝日新聞も、決して批判しない。それどころか、夏になれば予選の段階から「煽りに煽る」。最近はそうでも無いが、かつては新聞がおおいに売れたからである。なんのことは無い、戦前の日本軍を煽って部数を伸ばしたビジネスモデルとまったく変わり無いではないか。反省が無いとはこのことだろう。

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