「特に災害発生直後は共有トイレから排泄物があふれ、周辺に臭いが充満する避難所は決して珍しくない。
仮設トイレができた後も、男女共用で用を足す音が外に漏れてしまうし、決して清潔な状態ではありません。また、1つのトイレを大人数で使うから混むことも多い。そうした際、男性は外ですませられる人もいるけれど、女性はそういうわけにはいきません」(柳原さん)
『地震・台風時に動けるガイド 大事な人を護る災害対策』の監修者で、国際災害レスキューナースの辻直美さんも声を揃える。
「女性はトイレが汚れていると、排泄をがまんしようとして水分摂取を控えるため、エコノミークラス症候群のリスクに加え、体に老廃物がたまりやすくなり、心身の不調につながります。
また、トイレをがまんすれば膀胱炎を発症するリスクも上がります。さらに、ストレスと入浴はおろか下着を替えることもままならない不衛生な状態が相まって、腟カンジダを発症する恐れもあります」
衛生面の問題は避難生活が長引くほどに深刻化する。肌に直接触れる下着も多くの被災者を悩ませている。少量の水だけで洗濯でき、人目に触れさせずに干すことができる加工を施した、災害時用の下着・洗濯キット「レスキューランジェリー」を開発した本間麻衣さんが言う。
「女性用下着は支援物資として避難所に届きますが、避難が長引けば洗濯と乾燥のニーズが生じます。洗濯物の干し場、特に下着を干す場所は男女一緒ではもちろん、同性でも自分の生活を垣間見られるプライベート情報を共有するのは気後れするもの。災害下において小さな悩みに思われるかもしれませんが、ストレスは計り知れないほど大きい。しかし、そうした問題についての支援はまだ行き届いていないのが現状です」
粉ミルクは配られても授乳する場所がない
プライバシーに関する問題ものしかかる。
「現在、避難所として指定されている場所の多くが体育館や公民館です。そのため仕切りがなく、雑魚寝で多くの人と寝食を共にすることを余儀なくされる。
着替えはもちろん、赤ちゃんがいるお母さんは授乳の場所にも困ってしまう。“母子のために”と粉ミルクこそ配ってもらえるものの、充分な量が支給されないことも少なくないうえ授乳のための個室を作ることまではなかなか行き届いていません」(柳原さん・以下同)