こういったサービス業とは無縁の人たちには理解しにくいかもしれないが、かつての商習慣では、女性と客が直接、連絡を取ることは基本的になかった。ごく一部”色恋営業”目当てに秘密裏に客と連絡を取り合う女性はいたが、そうした行為は店側が厳しく監視して禁じていた。疑似であっても恋愛感情を客に持たせることは、女性にとってさまざまな危険が及びかねないデメリットしかなかったからだ。しかし近年、紹介サイトが林立し、女性たちがそこに自撮りの写真や動画をあげたり、SNSを使って客に直接、メッセージを送るなどするようになった。これらの行為は、かつてなら禁じられていたはずだが、最近では経営側から「営業活動」とすら見做される向きがあるというのだ。
「前提として、ほとんどの女性が業界で働いていることを隠したいし、業務時間外で客と連絡を取り合いたいなどとは思いません。ですが、女性と客のコミュニケーションの形が、否が応にも変わってしまい、そうしないとお茶を引く(客が全くつかない)確率も増える。女性側のデメリットが増え続けているのは間違いありません」(森本さん)
SNS営業による増収と大きなデメリット
千葉県内の店で働くコユキさん(30代)は、SNSを使って客と直接やりとりしなくてはならないシステムが嫌で、東京の店からやむなく移籍したという1人だ。その切実な事情を、次のように説明する。
「都内のお店は、どこも”SNS営業が必須”で、それが嫌なら採用されなかったり、保証給(接客数を問わずもらえる給料)が減額されるなどしました。東京の店より、千葉の店は給与も客数も少ないですが、紹介サイトにモザイク加工などをしない写真を投稿することや日記を書くことを強制されることがありません。SNSで客とやり取りをしなければならないのは苦痛でしかなく、実際に危ない目にも遭ったので、今の方が安心です」(コユキさん)
コユキさんは一体どんな危険なことに遭ったのか。被害の内容を聞くと、サイトを見た知人にバレたり、禁止されている写真や動画の保存をされ、それをネタにSNSで見知らぬ人物から強請られたりしたことがあるという。
「毎日のように変なメッセージを送ってくる客がいて、気持ち悪くて無視していたら、殺害予告まであった。実際、仕事終わりに店から自宅まで跡をつけられて警察沙汰になり、裁判所に接近禁止命令を出してもらったこともあります。ほんの5~6年前までは、こんなことはありませんでした」(コユキさん)
一年ほど前まで九州地方の店で働いていたキサキさん(20代)も、店側から強要される顔写真のサイト掲載や、毎日の日記書きなどが嫌で都心店から地方へ移籍した。だが、いつの間にか都心店のような「営業」を求められ、辞める直前にはサービス中に客が撮影することまで店から強要されたと嘆く。