メロディーに縛られない自由さを現代詩というジャンルに感じて思いのままに言葉を紡ぐ一方で、森さんは「図形詩」や「戯曲詩」という新しい「型」を積極的に現代詩に導入している。
「多分ひねくれているんだと思うんですけど(笑い)、自分なりの縛りを作ることで、何か思いもよらない新しいものが生み出されるんじゃないかな、という期待があるんです。『図形詩』は詩と詩文の形をリンクさせています。『浮遊』という詩だと、詩の言葉が海に浮かぶ『ブイ』の形になっているとか、『正体』という詩は何だかわからないけものの形に。『戯曲詩』だと、語り手を戯曲みたいに指定して書いています」
英語の詩や漢詩では韻が重視されるが、日本語の詩は韻を踏むことを重視してこなかった。ラップの流行で、いまでは日本語の歌詞でも韻を踏むことは当たり前になっているが、作詞家としての森さんはかなり早くから韻や言葉遊びを取り入れてきた。
「ぼくの場合、グラムロックやプログレッシブロックから始まっているので、キング・クリムゾンやデヴィッド・ボウイには世界観やステージングも含めて影響を受けてきました。ボウイの歌詞なんて、韻で遊んでいたりするせいで、日本人にはちょっとわかりにくいところがあったりしますけど、そういう歌詞の影響があって、日本語はロックのビートにのりにくい、と言われているころから、韻を踏んだり、いろんなトライアルを続けてきました」
今回の詩集に収録した「SOKOに居た」という詩では、「イタリアに居た」「異端者達の集うカフェで」「委託された若さを」「痛みがコメカミを襲うたび」と、「ITA」という音がたたみかけるように連ねられ、独特のリズムが生まれている。
巻末に置かれた「生きる、あなたに泣いてほしくて。」は、アミューズが中心になって音楽業界で続けている「アクト・アゲインスト・エイズ」のチャリティー活動の中で書いた「生きる」という詩を、コロナ禍を経験したいま、改めて手を入れて書き直したものだ。
言葉を使う表現にはまだまだ可能性があるんじゃないか
森さんは、ポップスから作詞家のキャリアをスタートさせ、ロックの世界に移った。ロックアーティストがライブの場を持つように、自分も発表の場を持ちたいと思ったのが詩を書くきっかけだという。
「ポエトリーリーディングという言葉がそれほど一般的ではないころから小さな場所で自作の詩を読むライブ活動をしていました。『POEMIX』といって、詩の朗読とパフォーマンスを融合した形の作品を、岸谷五朗とパルコ劇場で上演したこともあります」
今回の詩集の刊行記念イベントでは、3人の俳優・声優と一緒に、戯曲詩を含めて詩を朗読したほか、森さん自身の朗読で、毎週1編ずつ、ポッドキャストで配信していく。