高校野球の歴史には、各時代を象徴する強豪校があった。1980年代以降は早稲田実業、徳島・池田、PL学園と続いた。盛者必衰は高校野球の常で、栄華が10年以上続いた学校は一校もない。だが、大阪桐蔭の黄金期のスタートを藤浪晋太郎らが春夏連覇を達成した2012年とするならば、一強時代は既に12年間も続いてきたことになる。西谷は言う。
「もちろんどんな学校にも浮き沈みがある。毎年、生徒が入れ替わる高校野球で、常に甲子園に出るのは難しいこと。ただ、僕自身は俯瞰的に過去を振り返る余裕がなくて、毎日が必死なんです。だから勝利数も自分の数字にはまったく興味がない。たとえば今年は甲子園球場が開場して100周年ですが、そう聞けばどうしても勝ちたいという気持ちにはなる。だけど、僕は来年も再来年も勝ちたい。欲深い男です」
マスコミに囲まれた取材時の西谷は、当たり障りのない発言に終始する。一対一の時間を作ると、こうして本音に迫ることもできる。
(第2回へ続く)
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/1976年、宮崎県生まれ。ノンフィクションライター。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある。
※週刊ポスト2024年3月29日号