久しぶりの再会、半年後に結婚
麻田さんはその後も青柳さんの“専属モデル”として国内のみならずブラジル、ロサンゼルス、メキシコ、ハワイなど海外へもロケに繰り出しては平凡パンチに写真が掲載され大好評を得る日々が続いた。しかし、本人は自分が有名人である実感をあまり持てなかったという。
「何度も平凡パンチに載せていただき、顔と名前を知っていただきましたが、街で声をかけられることはほとんどありませんでした。もともと有名になりたいという意思はなく、ずっと芸能界で生きていく理由もないと思っていました」(麻田さん)
モデルと写真家の二人三脚の日々は約5年続いたが、青柳さんの仕事が忙しくなったこともあり、1977年4月の撮影を最後にすることにした。1978年以降はモデルの仕事を引退。当時は20代半ばで、実家に戻り両親と暮らした。モデル時代も含めて何度がお付き合いをした男性はいたが、結婚には至らなかったという。
「35歳になる前、父親から『いつになったら結婚するのか』と聞かれたので、『そろそろしなきゃな』と(笑)。母親同士が知り合いの1歳下の男性がいて、20歳の時に一度会ってその後は年賀状のやりとりだけだったのですが、自分から連絡をとってみました。再会してみると気が合って、半年後には結婚しました。タイミングってあるんだなと思いました(笑)」(麻田さん)
結婚後は長らく表舞台に出ることはなかったが、2014年に青柳さんの写真をまとめた『麻田奈美写真集「林檎の記憶」』の刊行が始まり、再ブームが到来。第4巻まで発売された。その読者アンケートで「現在の麻田奈美が見たい」という声が多く届き、2019年春に麻田さんは再び青柳さんのカメラの前に立つことになった。65歳になっていた。
撮影は、青柳さんが暮らす福島県伊達市で行なわれた。
「カメラを構える青柳さんは昔とまったく変わりません。でも私自身は“麻田奈美”に戻ることはありませんでした。青柳さんから『温泉で撮りたい』と言われたときにはびっくりしましたけど、『背中だけだから。前は撮らない』と言われて、それならと(笑)」(麻田さん)
未完となっていた麻田奈美写真集は、1977年のラスト撮影と42年後のフォトセッションを収録した第5巻『ファイナルカット』が2024年4月に発売され、同時に全巻が電子書籍化された。
「当時の写真を見ると、溌剌として初々しくて、自分で言うのもなんですが、かわいい娘ですね。私自身も知らなかった身体の美しさを見出してくれた青柳さんと、あの頃の輝いていた麻田奈美をいつまでも心に残してくれているファンの皆さんに感謝を伝えたいです」(麻田さん)