イジメや暴力につながる懸念
相撲部屋の合併では、問題が起きやすい。1993年3月、藤島親方(当時、元大関・貴ノ花)が率いていた藤島部屋は、実兄である元横綱・初代若乃花の定年により二子山部屋と合併。新たに「二子山部屋」に名称変更した。旧・二子山部屋の力士38人が藤島部屋に合流し、総勢62人の大所帯になった。今回の転籍よりはるかに大人数だったわけだが、当時の二子山部屋のおかみさんだった藤田紀子さんはこう振り返る。
「大変だったことは山のようにあります。生まれ育った家庭によって受ける躾が違うのと同じように、力士も部屋によって入門してから教えられることが違う。相撲部屋はひとつの家族ですからね。いいことでも悪いことでも、いろんなところで価値観が違うので、違う部屋の人たちがひとつになるのは想像以上に大変なんです。
子供たち(弟子の力士たち)は隠れて悪いことをやりますからね。それがイジメや暴力につながる。うちの部屋(もともとの藤島部屋)では力士たちがやらなければいけないと思っていることでも、他の部屋の力士たちは“なんでそんなことを……”となったりする。それで不満が溜まり、兄弟子による弟弟子へのイジメにつながったりする。それが怖かったですね」
もちろん、他の部屋で育った力士でも、弟子として預かることになったからには、何かあってはいけないという気持ちで取り組んだという。紀子さんが続ける。
「ちゃんこの手伝いや部屋の掃除をするといった理由を作っては、常に若い衆のところに行って聞き耳を立てていましたね。若い子と話して、情報収集もしました。自分がイジメに遭っているとは言わなくても、周りでイジメがあるかは聞けるかもしれない。みんなが仲良くなるために、団体旅行に連れて行ったりもしました。
親方も稽古で見る人数が増えたら疲れてしまって、稽古場に降りなくなった時期もありましたね。私は力士たちに目配せをしているのに、親方がそんな感じになってしまって、夫婦仲までギクシャクしてしまったこともありました。そうなると力士たちにもわかりますからね」