ライフ

北方謙三氏は「たった一人の読者に向けて」小説を書いている

北方謙三氏

 今年9月、最新作『抱影』を書き下ろした作家・北方謙三氏。『三国志』『水滸伝』に続く『楊令伝』の完結など近年の歴史小説家としての活躍に対して、同作はデビュー作『弔鐘はるかなり』以来の“北方ハードボイルド”の系譜に連なる物語だ。北方氏は何を考えて小説を書き続けているのか、ノンフィクション作家の稲泉連氏が聞いた――。

 * * *
「僕はね、いつもたった一人の読者に向けて小説を書いているんです」

 たとえ本が何百万部売れようとも、それは変わらない。自分はそんなふうにずっと小説を書き続けてきた、と北方謙三は語った。

「その読者はもうひとりの自分かもしれない、と思うこともある。そいつの心の孤独に、自分の孤独から出た言葉を投げかける。その孤独と孤独が感応したときに、何か物語というものを超えた、心の震えのようなものが生まれるはずだと信じながらね」

 もちろん小説を書く具体的な作業の一つひとつは、彼にとってそのような「抽象的な行為」ではあり得ない。原稿の締切が差し迫る中で言葉を選び、捨て、削る。一語一語と論理を積み重ねては、文体を引き締める。一言で表せることは一言で、二行で言い表せることは二行で、と文章を研ぎ澄ましていく日々は、彼に言わせれば「あまりに通俗的なもの」でもあるという。

「つまり論理を超えようと必死になりながら、小説を書くことの通俗性に耐えていくんです。すると、言葉にはできないたった一つの美しい何か─愛でも憎しみでもいい、たった一つの澄み渡った情念が最後に残る。それを本の向こうにいる一人に投げるんです」

撮影■太田真三

※週刊ポスト2010年12月10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン