国内

東大名誉教授 原発の代替発電手段・本命は「地熱発電」

 原子力は現在、日本の電力供給の約4分の1を占めている。しかし、福島第一原発の事故を受け、その見直しは避けられない。原子力に替わる新たなエネルギーは何か。エネルギー問題に詳しい東大名誉教授の安井至氏の提言は興味深い。

 * * *
 1000年に1回といわれる大災害とはいえ、現実に原発に事故が起きてしまった。住民の反発も考えられ、今後、福島の原発を使うことはできないだろう。原発そのものへの反発が高まり、別の場所での新規建設もまず不可能と思われる。

 原発からの電力が途絶えたため、関東圏では鉄道の間引き運転や計画停電が実施されている。これから春に入れば電力需要は緩和し、計画停電は不要になるかもしれないが、問題はその後だ。原発なしでは夏場のピーク時の電力需要に対し、供給は絶対的に足りない。おそらく東京23区内の都心部まで計画停電の範囲が広がることになるだろう。

 では、原発に替わるものがあるのかというと、結論からいって、現実的には極めて難しい。その中であえて可能性を指摘するならば、やはり「新エネルギー発電」の普及であろう。「新エネルギー発電」というと、風力や太陽光にばかり注目が集まる。だが、ヨーロッパやアメリカなどの大陸諸国とは違い、島国である日本は風向が安定せず、雨・雪も多いので、風力や太陽光発電には向かない。必要なときに発電できないかもしれない、あてにならない電源なのである。蓄電池に貯める方法もあるが、蓄電池自体が高価であるため、これも現実的ではない。

 私が現時点で本命と考えるのは「地熱発電」。次いで、「中小水力発電」、「洋上風力発電」が挙げられる。地熱発電とは、火山活動による地熱で蒸気を発生させて発電する方法である。現在、日本には18か所の地熱発電所があり、合計で535メガワット(原発1基の半分ほど)の発電容量である。火山国である日本には、最も適している。

 2つ目の中小水力とは、河川や農業用水などを利用して発電する方法だ。すでに日本のほとんどの大河川には大規模ダムが建設されているので、小さな河川で細かくエネルギーを拾っていくような形になる。現状では発電量としてカウントできるほどの量ではないが、候補地が非常に多いのでポテンシャル(潜在能力)は秘めている。
 
 3つ目の洋上風力は、陸地ではなく海上での風力発電だ。陸上に比べ、風向・風力が安定しやすいので、“あてにできる電源”になる。

 自然エネルギー発電が普及してこなかった背景には、コストの問題があった。地熱発電の場合、1キロワット当たりの発電コストは10数円程度。現在、産業用電力の売値が約10円/キロワットなので、電力会社からすれば6~7円/キロワット程度でないと買い取りに積極的になれなかったのだ。

 また、地熱は、利用に適した場所の多くが国立公園内にあることが多く、これが建設の障害になっていた。中小水力や洋上風力は、水利権や漁業権という、法に規定されていない既得権に阻まれることが多かった。
 
 しかし今は「非常時」だ。平時は動かせなかった強固な既得権も、輪番停電まで行なわれる「国の危機」という言葉の元に崩せる好機ともいえる。政府もこの機会をとらえ、電力買い取りを義務化するなどして、自然エネルギー発電の普及を推し進めるべきである。

※週刊ポスト2011年4月8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン