国内

東芝の元原発設計者 「再臨界」が起こる条件を解説する

連日福島原発に関する報道が多数だが、ことばの意味がよく分からない人もいるのでは。たとえば、「再臨界」とは地震直後に停止した核分裂連鎖反応が再び起きることを指す。

核燃料であるウランやプルトニウムは、核分裂する際に巨大なエネルギーと中性子を放出する。エネルギーは発電に使われ、中性子は別の燃料(原子)にぶつかって、次の核分裂を引き起こす役目を担う。

その「核分裂→中性子放出→核分裂」という連鎖反応が続く(すなわち、1回の核分裂が1回以上の核分裂を引き起こす)状態を「臨界状態」と呼ぶ。正常運転している原子炉内は臨界状態に保たれており、それにより巨大なエネルギーが発生し続けるのである。

その際に多くの放射線が放出されるが、通常は圧力容器や格納容器で遮られ、ほとんど外部には漏れない(ただし微量は漏れる)。これが大量に外に出るような事故が起きると大ごとだ。

地震が発生すると、原子炉には「制御棒」が挿入されて臨界が止まる。制御棒は、臨界を起こす中性子を吸収する性質のある「ハフニウム」を原料としており、それが燃料棒の間に入って核分裂を止めるのである。

再臨界の可能性は、大きく分けて2つある。

●制御棒が抜け落ちて、原子炉が運転状態に戻る。
●燃料棒が溶けて流れ、制御棒のない圧力容器下部や格納容器下部に溜まり、そこで臨界に達する。

最初のケースだが、制御棒が抜け落ちると臨界になるのだろうかといえば、実際は違う。

事故後、圧力容器内には、やはり中性子を吸収する効果が高いホウ素(ホウ酸)を混ぜた水が入れられている。水自体が制御棒と同じ役割をするので、これに満たされた状態では臨界状態になる可能性は低い。

その水が抜けたとしても再臨界は難しい。東芝の原子力事業部で30年間にわたり設計や安全解析に従事した吉岡律夫氏の説明は非常に具体的だ。

「原子炉内の水は、中性子の『減速材』としての役割もある。減速されない中性子は核分裂を起こしにくいからです。その水が抜けてしまえば、それだけで再臨界は起きなくなる。 炉心で臨界を起こすには、燃料棒が1.5cmの等間隔に配置されていること、水で満たされていること、制御棒が抜かれていることの3つが必須で、どれが欠けても臨界は起きません」

では、燃料が溶けて集まるケースはどうか。すでに1~3号機では燃料棒が溶けていると見られている。

「その場合、制御棒も熱で溶ける可能性が高く、溶けた燃料にはハフニウムやホウ素など臨界を止める物質が混ざる。その溶解物では臨界は起きないでしょう」(別の原子炉技術者)

※週刊ポスト2011年4月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト