芸能

落語真打の瀧川鯉昇 何も喋らず客席を見るだけで笑い起こる

 広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が「独特の浮遊感」と評する落語家が、瀧川鯉昇(たきがわ・りしょう)である。

 * * *
 東京落語の二大協会のうち、落語協会にばかり注目が集まりがちなのは昔も今も変わりはないが、もう一方の落語芸術協会(芸協)にも魅力的な演者は何人もいる。

 芸協の中堅真打、瀧川鯉昇。彼は2005年以降の落語ブーム現象の中で「芸協にこんな人がいたんだ!」と注目が高まった個性派の演者だ。

 1953年生まれ、浜松市出身。1975年に八代目春風亭小柳枝に入門したが、1977年に小柳枝が廃業したため春風亭柳昇の門下に移り、1990年に春風亭鯉昇で真打昇進。2005年に瀧川鯉昇と改名している。芸協には伝統的に新作派も多いが、鯉昇は古典派だ。

 鯉昇の落語は、淡々と演じていながら濃厚な味わいがあり、クセが強いのに後味サッパリ。この「飄々としながら濃い」芸風は、彼が芸協の土壌で伸び伸びと育ったからこそ培われたものかもしれない。少なくとも落語協会の人気者や立川流の演者とは明らかに異質だ。

 鯉昇は「上手い落語家」である。演出や台詞回しを工夫する「創作力」も豊かで、声も良い。だから音で聴くだけでも楽しめる。

 だが「観る」ことなくして鯉昇の本当の面白さを味わうことは出来ない。その「インパクトの強いルックス」も彼の芸の一部だからだ。

 鯉昇は高座に出て座布団の上に座ると、お辞儀をして顔を上げた後、しばらくは何も喋らず、ただ客席を呆然と見る。この「無言の間」に、客席からはなぜか笑いが起こる。まだ何もしていないのに!

 ややあって鯉昇が微笑むと、「怖い顔のオジさん」としかいいようのない風貌が、何とも愛嬌のあるものに見えてくる。口を開くと、聞こえてくるのは深みのある良い声だ。

 自身の健康状態や最近の出来事について、丁寧な口調で穏やかに語るのが鯉昇のマクラの定番だが、たいていダジャレでオチがつくような「ネタ」だ。そして、鯉昇ファンはその脱力感をこよなく愛する。

※週刊ポスト2011年6月24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン