国内

民主主義の原則「一人一票」に対立する投票法の画期性とは

 現状の選挙制度では、数の多い老人の声が優先され、世代間格差は広まる一方だ。そこで若者の声が政治に届くようにするために「年齢別選挙区」の導入をはかるべきだとの意見も出ている。これは人口の構成比に応じて議席を配分するというものだ。

 暴論にも思えるが、実は日本と同じく世代間格差が問題となっている諸外国でも選挙制度改革が検討されている。

 例えば、ハンガリーでは、親の声を反映させる「ドメイン投票法」という投票制度の導入が、目下検討されているところだ。ドメイン投票法とは、ハンガリー出身の人口統計学者、ポール・ドメイン教授が提唱する選挙制度だ。民主政治において投票者が高齢化すると、若者世代の将来に無関心になりがちで、それを是正するために考案したという。実際には子供に1票を与え、それを親が代行して投票する。夫婦で子供が2人いれば、親は1票ずつ余分に投票できることになるわけだ。

 ドイツでもドメイン投票法の導入法案が2005年と2008年に議会に提出され審議された。ただ、親が子供の票をもつとなると民主主義の根幹である1人1票の原則に反し、投票の秘密も守れないという観点から2度とも否決されている。

 世代間格差問題を研究する青木玲子・一橋大学教授は、ドメイン投票法が注目されている理由をこう語る。

「ドイツやハンガリーも日本と同様、出生率が低く社会保障の負担が若い世代にのしかかっています。ですから、子供をもつ若い世代の意思を政治に反映させるために提案されたわけですが、理由はそれだけではありません。ドメイン教授は、子供の1票を母親がもつことで母親の発言権が増し、母親にフレンドリーな政策が実現し、出生率が上がると考えたのです」

 しかし、いくら親が説明したとしても、子供に政治的な判断ができるのだろうか。ドメイン投票法に賛成する『「若者奴隷」時代』著者の山野車輪氏はこういう。

「ぶっちゃけ、子供の意見は反映されなくてもいいんです。20歳未満というのは親が管理しないといけないわけですから、親が子供の将来を考えて、責任もって投票すればいいだけです」

 そうはいっても、1人1票というのは民主主義の大原則であり、1人で何票ももつ人が出てくることには、不公平感を感じる人も出てくるはずである。この疑問に対して、青木教授はこう答える。

「民主主義のあり方を考え直すべき時期に来ていると思います。民主主義が始まったギリシアでは、当初、投票できるのはごく一部のお金持ちだけで、アメリカでも昔は所得制限があり、男性しか投票できなかった。それが段階的に無産階級に広がり、20世紀になって女性にも権利が拡大した。今は、これまで経験したことのないような超高齢化社会に突入し、それに伴って世代間格差が広がるなど、世の中が変わっているのに、制度が追いついていないのです」

※週刊ポスト2011年7月1日号

関連キーワード

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン