芸能

自然体で古典落語を演じる技術がある女流落語家・柳亭こみち

 広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が大いに期待する女性落語家が、柳亭こみちだ。

 * * *
 落語家に女性は少ない。現在、東京の女性落語家は四団体合わせて二十人。圧倒的な少数派である。

 女性が落語を演る上での最大の弱点は声だ。女性特有の高い声で無理に「男の声」を作ろうとすると、どうしても「アニメで女性の声優が男の子の声を出している」みたいになってしまう。そんな声でご隠居さんや喧嘩っ早い男を演じられては、こっちが気恥ずかしい。

 だがそれは「女に落語は出来ない」ということではない。アニメ声になってしまう演者が未熟なだけだ。そもそも、落語において「声を作って演じ分ける」というのは極力抑えるべきことであって、声ではなく演技力によって老若男女を演じ分けるのが上手い落語家なのである。

 今、女流講釈師は珍しくない。講談の世界では既に「女性講釈師のあり方」が確立されているのだ。落語でも、個々の演者が「男とは声が違う」ことを自覚しながら技巧に工夫を凝らし、修練を積むことで、「女流落語家のあり方」が確立されても不思議ではない。

 その意味で僕が大いに期待しているのが、落語協会の女流二ツ目、柳亭こみちだ。早稲田大学卒業後、社会人を経て2003年に柳亭燕路(柳家小三治の弟子)に入門している。こみちは古典落語の基本がしっかりと出来ていて、ハキハキと明るい口調が実に心地好い。不自然に声を「作る」ことなく自然体で古典落語を演じる技術があるから、「女性であること」は「高座の華やかさ」という武器になっている。

 ここ数年でこみちはグッと面白くなった。例えば『都々逸親子』。三代目三遊亭圓右(故人)の新作落語で、多くの演者が継承して今や古典に近い演目だが、こみちは本来の「父と息子」という設定を「母と娘」に変え、自身のキャラを前面に出して大いに笑わせる。

 男性が演じるように作られた落語を女性がそのまま演っても、観客の共感は得にくい。だから、女流落語家が成功するには「女が演じてリアルに感じられる噺」にする創意工夫が必要だ。もちろん「女性向きの新作落語を創る」のも正しい方法論だが、こみちの『都々逸親子』がそうであるように、「既に存在する噺の設定を変える」だけでもいい。

※週刊ポスト2011年9月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

WEST.中間淳太(37)に熱愛が発覚、お相手は“バスり”ダンスお姉さんだ
《デートはカーシェアで》“セレブキャラ”「WEST.」中間淳太と林祐衣の〈庶民派ゴルフデート〉の一部始終「コンビニでアイスコーヒー」
NEWSポストセブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン
Aさんは和久井被告の他にも1億円以上の返金を求められていたと弁護側が証言
【驚愕のLINE文面】「結婚するっていうのは?」「うるせぇ、脳内下半身野郎」キャバ嬢に1600万円を貢いだ和久井被告(52)と25歳被害女性が交わしていた“とんでもない暴言”【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
WEST.中間淳太(37)に熱愛が発覚、お相手は“バスり”ダンスお姉さんだ
《独特すぎるゴルフスイング写真》“愛すべきNo.1運動音痴”WEST.中間淳太のスイングに“ジャンボリお姉さん”林祐衣が思わず笑顔でスパルタ指導
NEWSポストセブン
食欲が落ちる夏にぴったり! キウイは“身近なスーパーフルーツ・キウイ”
《食欲が落ちる夏対策2025》“身近なスーパーフルーツ”キウイで「栄養」と「おいしさ」を気軽に足し算!【お手軽夏レシピも】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
「どうぞ!あなた嘘つきですね」法廷に響いた和久井被告(45)の“ブチギレ罵声”…「同じ目にあわせたい」メッタ刺しにされた25歳被害女性の“元夫”の言葉に示した「まさかの反応」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
遠野なぎこと愛猫の愁くん(インスタグラムより)
《寝室はリビングの奥に…》遠野なぎこが明かしていた「ソファでしか寝られない」「愛猫のためにカーテンを開ける生活」…関係者が明かした救急隊突入時の“愁くんの様子”
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)が犯行の理由としている”メッセージの内容”とはどんなものだったのか──
「『包丁持ってこい、ぶっ殺してやる!』と…」山下市郎容疑者が見せたガールズバー店員・伊藤凛さんへの”激しい憤り“と、“バー出禁事件”「キレて暴れて女の子に暴言」【浜松市2人刺殺】
NEWSポストセブン
目を合わせてラブラブな様子を見せる2人
《おへそが見える私服でデート》元ジャンボリお姉さん・林祐衣がWEST.中間淳太とのデートで見せた「腹筋バキバキスタイル」と、明かしていた「あたたかな家庭への憧れ」
NEWSポストセブン
先場所は東小結で6勝9敗と負け越した高安(時事通信フォト)
先場所6勝9敗の高安は「異例の小結残留」、優勝争いに絡んだ安青錦は「前頭筆頭どまり」…7月場所の“謎すぎる番付”を読み解く
週刊ポスト
アパートで”要注意人物”扱いだった山下市郎容疑者(41)。男が起こした”暴力沙汰”とは──
《オラオラB系服にビッシリ入れ墨 》「『オマエが避けろよ!』と首根っこを…」“トラブルメーカー”だった山下市郎容疑者が起こした“暴力トラブル”【浜松市ガールズバー店員刺殺事件】
NEWSポストセブン
WEST.中間淳太(37)に熱愛が発覚、お相手は“バスり”ダンスお姉さんだ
《熱愛ツーショット》WEST.中間淳太(37)に“激バズダンスお姉さん”が向けた“恋するさわやか笑顔”「ほぼ同棲状態でもファンを気遣い時間差デート」
NEWSポストセブン