国際情報

中国によるサイバー版真珠湾攻撃発生可能性を米軍関係者懸念

この数年、各国の重要機関のコンピュータシステムに侵入・攻撃を仕掛けている中国だが、米中間においてはすでに「サイバー戦争」が始まっている。米国は政府をはじめ、軍や公共システムはすべてコンピュータやインターネットに依存している。このシステムにサイバー攻撃すれば、米国の国家機能は混乱の極みとなる。産経新聞ワシントン駐在編集特別委員の古森義久氏がレポートする。

* * *
「サイバー攻撃に関する限り、米中戦争はもう始まりました」

中国人民解放軍の宇宙兵器やミサイル、サイバー攻撃など、高度技術がからむ領域を専門に研究しているヘリテージ財団の首席中国研究員ディーン・チェン氏が語った。

チェン氏はアメリカ国防総省の中国担当部門、そして議会の技術評価局、海軍の分析センターなどでも通算20年近く働き、中国軍のハイテク分野を調査し、分析してきた。

「中国側はサイバー空間の仮想世界でアメリカとの正面対決がすでに開始されたとみなしているのです。グローバルな規模での米中の戦いです。正確には中国がアメリカ側の国防や安保関連のコンピュータ網に全世界規模で攻撃をかけているということです」

サイバーとは周知のようにコンピュータやインターネットを指し、サイバー攻撃とは相手のコンピュータのシステムを襲い、破壊や混乱をもたらす活動のことである。ただしその攻撃にも大別して2種類あり、第一は文字どおり相手のシステムを壊すこと、第二は相手のシステムに侵入して、情報や機密を盗むことだとされる。

米側の最近の公的な報告でも、「2010年4月8日に中国側組織が全世界のインターネット情報の15%を18分間、中国国内のサーバーへとハイジャックすることに成功し、その情報にはアメリカの軍や政府のインターネット交信も大量に含まれていた」と、ショッキングなサイバー攻撃の実例が伝えられた。

チェン氏の指摘するように、米側では中国がそのサイバー攻撃を軍事手段の枢要な一環と位置づけ、その能力を高めていることへの警戒を強めているのだ。だから国防総省の「中国の軍事力報告」でも「中国のサイバー戦争」という用語がすでに頻繁に使われている。この8月24日に公表されたばかりの2011年度の同報告も「中国のサイバー戦争能力は大幅に増強された」と強調していた。

中国はサイバー戦争を非対称戦争の一種とも位置づけている。非対称というのは均衡のとれていない、つまり正面衝突ではない戦争のことで、奇襲とかゲリラ攻撃、背後や側面からの攻撃を意味する。

中国は通常の軍事能力ではまだまだアメリカにはるかに及ばず、正面からの軍事衝突では勝ち目はない。そのため、通常ではない手段での戦い、つまり非対称の戦争を挑むことが必至となる。その手段の一つがサイバー攻撃だというのだ。チェン氏が説明した。

「サイバー版のパールハーバーが起きうるという懸念が米軍関係者の間でひそかに広まっています。相手は中国です。米側の軍や公共のシステムはコンピュータやインターネットに全面依存しているといえます。軍機関や情報機関のネットワークから電気、水道、廃棄物処理、金融機関、航空管制、社会保障などのサービスまでそうです。有事にこうしたシステムへのハッカー攻撃が起きれば、国家機能が麻痺しかねません」

※SAPIO2011年10月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン