国際情報

米が対日戦争意識したのは日露戦争勝利で日本強くなったから

佐藤優氏は著書『日米開戦の真実』(小学館文庫)で、開戦にいたるアメリカの対日戦略を詳細に分析した大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解き、「軍部の暴走による開戦」というイメージが虚構だと鋭く指摘した。その佐藤氏によれば、21世紀の東アジアには70年前と「相似形」の状況が見られるのだという。以下、佐藤氏による解説だ。

* * *
1941年12月8日(現地時間では7日)、日本海軍はハワイ州の真珠湾を攻撃し、日米戦争が勃発した。同12日の閣議決定で、この戦争の名称は大東亜戦争と定められた。日本の宣戦布告は当初、米国と英国の2国に対して行なわれたが、支那事変、さらに情勢の推移によって生起することがある戦争(例えば対オランダ戦争)も大東亜戦争に含まれるとされた。

敗戦後、GHQ(連合軍総司令部)は、大東亜戦争という言葉を公文書で用いないように指令した。そこで、太平洋戦争という言葉が用いられるようになった。ただし、大東亜戦争を太平洋戦争に名称変更するという日本政府の決定はなされていない。あの戦争の名称を大東亜戦争と定めた閣議決定は取り消されていないのである。

さて、米国は、日露戦争で日本が勝利した直後から、来るべき対日戦争を想定し、「オレンジ・プラン」という秘密計画を立てていた。

〈太平洋戦争の四年間、米国は「オレンジ・プラン」と呼ばれる戦略におおむね沿った形で戦争を遂行した。二十世紀初頭、米国は仮想敵国を色で表すいくつかの戦争計画を作成、なかでもオレンジ・プランは最も卓越したものだった。各国に色別のコード・ネームを割り当てたのは大統領の諮問機関である陸海軍統合会議で、日本はオレンジ、米国はブルーで表された。色名は名詞・形容詞のいずれでも用いられ、オレンジは「日本」あるいは「日本の」、ブルーは「米国」あるいは「米国の」を意味していた。〉(エドワード・ミラー(沢田博訳)『オレンジ計画アメリカの対日侵攻50年戦略』新潮社、1994年、5頁)

もっとも「オレンジ・プラン」という名称は1940年末に消えて、「レインボー・プラン」に変わった。来るべき世界戦争では、味方と敵が入り乱れ、図上演習では虹のようにさまざまな色が現われることが想定されたので、このような名称変更がなされたのである。

米国が「オレンジ・プラン」を立てた時、日米関係は友好的だった。両国間の懸案は外交交渉で平和的に解決することが可能だった。それにもかかわらず、米国はなぜ日本との戦争を想定した国家戦略を策定したのであろうか。

その理由は簡単だ。1905年、日露戦争に勝利した日本が、強くなり、帝国主義競争の入場券を得たからだ。将来的に日本が国力をつけアジア太平洋地域における米国の支配的地位に影響を及ぼすようになると、日本との戦争が不可避になると米国は考えていた。

〈米国と日本は歴史的に友好関係を保っているが、いつの日か他国の支援なしの二国間戦争が勃発する、というのがオレンジ・プランの地政学的前提条件である。開戦の根本理由は、極東の土地、人、資源の支配を目論む日本の領土拡大政策であろう。

米国は自ら極東での西欧勢力の守護者をもって任じ、民族の自決と貿易の自由を何よりも大切にしているからである。日本は極東支配の野望を達成するため、フィリピンとグアムの米基地を攻略し、米国の軍事力を日本の海上輸送から一掃することが必要と考えるようになるだろう。〉(前掲書7頁)

米国は太平洋地域を根拠地とする帝国主義国家である。それだから、太平洋地域における米国の覇権に挑むようになった国家を叩き潰すというのが基本戦略だ。裏返して言うと、日本が太平洋地域における米国の覇権を脅かすことができない状態が出現すれば、米国の目的は達成されることになる。「オレンジ・プラン」にもこの考えが如実に反映している。

※SAPIO2011年12月28日号

関連記事

トピックス

昭和館を訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年12月21日、撮影/JMPA)
天皇ご一家が戦後80年写真展へ 哀悼のお気持ちが伝わるグレーのリンクコーデ 愛子さまのジャケット着回しに「参考になる」の声も
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
《ジャンボ尾崎さん死去》伝説の“習志野ホワイトハウス豪邸”にランボルギーニ、名刀18振り、“ゴルフ界のスター”が貫いた規格外の美学
NEWSポストセブン
西東京の「親子4人死亡事件」に新展開が──(時事通信フォト)
《西東京市・親子4人心中》「奥さんは茶髪っぽい方で、美人なお母さん」「12月から配達が止まっていた」母親名義マンションのクローゼットから別の遺体……ナゾ深まる“だんらん家族”を襲った悲劇
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
1年時に8区の区間新記録を叩き出した大塚正美選手は、翌年は“花の2区”を走ると予想されていたが……(写真は1983年第59回大会で2区を走った大塚選手)
箱根駅伝で古豪・日体大を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈3〉元祖“山の大魔神”の記録に挑む5区への出走は「自ら志願した」
週刊ポスト
12月中旬にSNSで拡散された、秋篠宮さまのお姿を捉えた動画が波紋を広げている(時事通信フォト)
〈タバコに似ているとの声〉宮内庁が加湿器と回答したのに…秋篠宮さま“車内モクモク”騒動に相次ぐ指摘 ご一家で「体調不良」続いて“厳重な対策”か
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト
米倉涼子の“バタバタ”が年を越しそうだ
《米倉涼子の自宅マンションにメディア集結の“真相”》恋人ダンサーの教室には「取材お断り」の張り紙が…捜査関係者は「年が明けてもバタバタ」との見立て
NEWSポストセブン
死体遺棄・損壊の容疑がかかっている小原麗容疑者(店舗ホームページより。現在は削除済み)
「人形かと思ったら赤ちゃんだった」地雷系メイクの“嬢” 小原麗容疑者が乳児遺体を切断し冷凍庫へ…6か月以上も犯行がバレなかったわけ 《錦糸町・乳児遺棄事件》
NEWSポストセブン
11月27日、映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を鑑賞した愛子さま(時事通信フォト)
愛子さま「公務で使った年季が入ったバッグ」は雅子さまの“おさがり”か これまでも母娘でアクセサリーや小物を共有
NEWSポストセブン
ネックレスを着けた大谷がハワイの不動産関係者の投稿に(共同通信)
《ハワイでネックレスを合わせて》大谷翔平の“垢抜け”は「真美子さんとの出会い」以降に…オフシーズンに目撃された「さりげないオシャレ」
NEWSポストセブン