国内

役所の「検討する」の意味は「先送りする」 新聞論説副主幹解説

言うまでもないが、新聞の言葉遣いは役所の言葉遣いと異なる。それは限られたスペースに多くのニュースを盛り込むために表現を簡潔にしたり、読者に分かりやすくするためだ。ところが、それゆえに政府が抱いている真の思惑が読者に伝わらなかったり、ときには誤解を生じたりもする。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が具体例を挙げて解説する。

* * *
たとえば、消費税引き上げをめぐる論議もそうだ。

「政府・与党は6日午前、社会保障改革本部(本部長・野田佳彦首相)を開き、消費増税を柱とする『税と社会保障の一体改革』素案を決定した」(1月6日付、毎日新聞夕刊)

この記事は後段で「増税前に衆院議員定数の削減や公務員人件費カットを実施する方針を掲げるなど、多くのハードルも課した」と報じている。他紙もほぼ同様である。

これだけ読むと、あたかも議員定数や公務員人件費の削減が増税の前提条件になったように受け取れる。ところが、実際の政府文書はどうなっているかというと、実は極めてあいまいなのだ。

政府の文書には「具体的には消費税率引上げまでに、国民の納得と信頼を得るため、以下の通り、政治改革・行政改革を期す」という文言もある。ここで「期す」とは「将来に向けて約束する」といった意味だ。増税前に必ず実行する必要はない。

具体的な改革の中身となると「独立行政法人改革、公益法人改革、特別会計改革、国有資産見直し等の行政構造改革に向けた取り組みを進め(中略)所要の法案を早期に国会に提出し、成立を図る」と、もっと玉虫色になっている。法案の国会提出時期は単に「早期に」というにすぎない。

これに対して、肝心の消費税率はどうかと言えば「2014年4月1日より8%へ、15年10月1日より10%へ段階的に引上げを行う」と誤解を生む余地がないように、はっきり書いている。

つまり、こういうことだ。官僚の文章はあたかも改革に力を入れるような体裁をとりながら、実際にはいくらさぼってもいいように逃げ道を用意している。一方で、とるものはしっかりとるように決め打ちする。いわゆる「霞が関文学」である。

これに対して、新聞は文書の細部にそれほどこだわらない。ふわっと「増税前に改革ならいいじゃないか」と受け止めて記事を書いてしまう。その結果「政府もそれなりに考えているらしい」といった好意的な誤解が生じてしまうのである。

役所が「検討する」というのは「先送り」という意味だ。「所要の措置を講じる」は自分たちに都合が良ければ「法律をつくる」だし、都合が悪ければ「先送りの措置を講じる」である。

まさに「悪魔は細部に宿る」。新聞はそこを見抜かなければならない。

※週刊ポスト2012年2月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン