国内

原発が止まると悪影響が出る客観的根拠を聞いたことがない

「原発が止まると電力が不足し、電気代は高騰する」――そんな理屈が原発推進派は語るが、果たしてこれは正論か? ノンフィクション作家の佐野眞一氏が斬る。

* * *
政・官・財、そして何も伝えないメディアという癒着構造のド真ん中に、いかにして日本の原発がビルトインされたか。

その経緯と構図を、私は被災地を歩きながら自分の目と足で確かめ、近著『津波と原発』(講談社刊)の中で検証した。癒着のド真ん中ということは、この社会のド真ん中に原発がビルトインされたということと同義である。それは言い換えれば、経済活動から国民生活に至るまで、日本の戦後が「原発ありき」でなければ成立しなかったという意味である。

かつて私は「野球の父」にして「テレビの父」、そして「原子力の父」でもあった正力松太郎やその影武者・柴田秀利が原発導入に果たした役割を『巨怪伝』(文藝春秋刊・1994年)に書いた。

しかしながら原爆を落とされた国の復興を原子力に託した彼らの切望を、いかにそれが利権含みとはいえ、今もって一方的に非難する気にはなれない。その恩恵に与ったのは年がら年中明るい街をありがたがる我々国民であり、誰もが直接的・間接的に原発ありきの社会を容認してきた当事者だからである。

だが、そこにこそ罠がある。例えば「原発なくして現在の生活は成り立たない」という“脅し文句”を彼らが用いる時、一度でも数字的裏付けが示されたことがあるだろうか。

あるいは最近よく聞く「原発の長期にわたる停止は、雇用に悪影響を及ぼす」という理屈でもいいが、少なくとも彼ら財界であったり経産省であったり東京電力であったりの口から、原発を止めるとどう雇用に影響して、日本経済はどの程度落ち込むのか、客観的な根拠を伴った説明を聞いた例しがない。

それでいてソフトバンクの孫正義のように自然エネルギーに活路を見いだそうとする人々に対しては「そんなものでまかなえるはずがない」と、ひどく断定的に切って捨てるのは、どう見てもフェアな態度とは言えない。

全ては“原発神話”や都市伝説の類に便乗した脅しに過ぎないかもしれず、彼らが煽る口裂け女的恐怖を退けるには、まず伝説の成立経緯を検証し、脅しに対抗できる傍証を得ることが必要になる。その点、我々が従来持ち得たのは「原子力の発電コストは1kWhあたり5.9円で安い」という事業者サイドから出た数字だけだった。

昨年末には政府のエネルギー・環境会議が新たに事故対策費用や交付金も加味した「最低でも8.9円」という試算を出してはいるが、「電気料金の値上げは事業者の権利である」などと恥ずかしげもなく言い抜けて20%もの値上げを打ち出す電力会社に対し、我々国民は、感情的にしか反論できずにいる。

こうした“思考停止”こそ、我々が「3・11」以降に課せられた最大の問題である。日本の高度経済成長は、原発なしでは達成できなかった。こうした検証抜きの言説に対し、胸に手を当てて、静かに考えてみる必要がある。そうでなければ、大津波で2万人近い尊い命が奪われ、何十万人もの人が故郷を喪失するかもしれない未曾有の震災体験が無になってしまうからである。今こそ、原発の呪縛から解放されなければならない。

例えば私が子供の頃は黒いダイヤと呼ばれた石炭をめぐって、埋蔵量がどれくらいで、あと何年もつかなど、数値が介在した議論が広く行なわれていた。ところがこと原発に限ってはそうした手順が踏まれた形跡がない。いわば、なし崩し的に導入された原発が、今はまたなし崩し的に再稼働へと動き出そうとしているのである。

(文中敬称略)

※SAPIO2012年2月1・8日号

関連キーワード

トピックス

アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
決定戦で横綱を下した安青錦(写真/JMPA)
【最速大関・安青錦の素顔】ウクライナを離れて3年、なぜ強くなれたのか? 来日に尽力した恩人は「日本人的でシャイなところがあって、真面目で相撲が大好き」、周囲へ感謝を忘れない心構え
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
主演映画『TOKYOタクシー』が公開中の木村拓哉
《映画『TOKYOタクシー』も話題》“キムタク”という矜持とともにさらなる高みを目指して歩み続ける木村拓哉が見せた“進化する大人”の姿
女性セブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト
CM露出ランキングで初の1位に輝いた今田美桜(時事通信フォト)
《企業の資料を読み込んで現場に…》今田美桜が綾瀬はるかを抑えて2025年「CM露出タレントランキング」1位に輝いた理由
NEWSポストセブン
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン
アスレジャー姿で飛行機に乗る際に咎められたそう(サラ・ブレイク・チークさんのXより)
《大きな胸でアスレジャーは禁止なの?》モデルも苦言…飛行機内での“不適切な服装”めぐり物議、米・運輸長官がドレスコードに注意喚起「パジャマの着用はやめないか」
NEWSポストセブン
(左から)小林夢果、川崎春花、阿部未悠(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫の余波》女子ゴルフ「シード権」の顔ぶれが激変も川崎春花がシード落ち…ベテランプロは「この1年は禊ということになるのでしょう」
NEWSポストセブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン