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キリン社長 「おっとり」社員に「野武士集団」への変身を求む

 近年、発泡酒や第3のビールに注力してきたビール各社が、主力のビールで鎬を削る今年は、例年以上に競争激化が予想される。そんな中、3月29日、磯崎功典氏がキリンビール社長に就任した。昨年、シェア・売り上げを共に落とした同社にとって、「巻き返し」は至上命題。国内ビール事業よりも、ホテル事業や海外事業に長く携わってきた磯崎社長は、社内に刺激を与える「反転攻勢の切り札」と目されている。「成熟市場における再成長」を掲げる磯崎社長に、その意気込みと戦略を、ジャーナリストの前屋毅氏が訊いた。

 * * *
――ビール戦争に勝ち残っていくためには、社長だけでなく、社員が奮起する必要がありますね。

磯崎:私一人だけで踏ん張ったって、屁の突っ張りにもなりません(笑)。社員にがんばってもらうためには、相当話し合いをしなければならないと考えています。ビール市場はシュリンクしているし、飲用人口も減っているし、自分はどうなっちゃうんだろうか、と色々な不安を社員は抱えていると思いますよ。それら全てに対して、私はスーパーマンではないので満足のいく回答は出せませんけど、彼らと向き合って真剣に話をしたいと思います。

――社員にも、頭を使うことが求められますね。

磯崎:いちばん楽なのは、上から言われたことを、そのままやることです。はっきり言って、こんな社員ばかりだと企業は絶対に衰退します。

 社員の一人ひとりが自分でものを考えて、自分で風土をつくることが重要で、そのための制度は実は既にあるので、運用に工夫が必要だと思っています。そこで、その風土づくりを企画部と一緒になって取り組んでいくつもりです。

――風土づくりほど難しいものはないと思いますが、これまでの経験で、これを学んだというのはありますか。

磯崎:兵庫県尼崎で3年間、直営ホテルの総支配人をやったことがあります。皆に「失敗する」と言われたホテルでしたが、なんとかこれを軌道に乗せました。

 経費削減のために、私はホテルに泊まり込み、本来は他のマネージャーがやる夜の業務からビル管理会社がやる館内点検まで自分でやりました。ホテル事業の一番大きいコストは人件費で、特に夜が高いので、自分でやったわけです。

 それで数千万円の経費は浮きましたが、もちろん黒字になるほどじゃない。ただ、そこで従業員たちが「総支配人、大変そうだなあ」と色々な知恵を出して、自分から動いてくれるようになりました。

 例えば、レストランが暇で宴会場が忙しいとします。しかし、レストランで働いている人が宴会場を手伝おうとしても、ホテルはユニフォームで役割が決まっているので簡単に手伝えない。それなら上着をリバーシブルにしてしまえば、すぐ裏返しにして手伝えるじゃないか、といったアイデアが出てきました。

 また、皆が頑張って企業営業してくれて月~木曜日はなんとかなってきたが、週末の需要が埋まらない。そこで皆で取り組んだもののひとつが、週末の宝塚観劇プランでした。そうしたら、女性が多いのでレディスフロアをつくろうとか、皆がノリノリでアイデアを出し、動いてくれました。

 リーダーが率先して垂範すれば、あとはもう皆がやってくれることを学びましたね。

――しかし、直営ホテルとキリンビールでは規模が違う。社長の率先垂範で社員の意識を変えるのは難しいのでは?

磯崎:ですから、まず、マネージャークラスをしっかりマネジメントしていきます。それと同時に、管理職になっていなくとも、若くて志の高い人を大事にしていきたい。質問も鋭いし、批判力もすごい人っていますよね。これは会社の力の源泉です。抑えつけると、せっかくのいい力が伸びていかない。

 私が知るかつてのキリンの風土は、非常に「おっとり」しています。おっとりしていることが悪いのではないですが、変にあきらめが早い。また、分析型が多く、これも分析することが悪いわけじゃないが、分析で終わってはいけないと思います。

 私自身、よくあれだけ失敗して、会社をクビにならなかったなと思うほど、色々とやらせてもらいました。必要なのはネバーギブアップの精神でしょう。

 これがダメなら、どうすればできるか考え、チャレンジを繰り返す姿勢です。勝負には「時の運」も何割かありますから、失敗しても腐るなと。なぜ失敗したかを考えて、改めてやっていく。そうすればキリンという集団は強くなっていく。

 その意味では、キリンビールには、攻撃型の、「野武士の集団」になってほしいと私は思っています。危機感を煽るつもりはないですが、刺激、チャンスは与えていきたいと思っています。

※SAPIO2012年4月25日号

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