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やくみつる「自分が叩く人に愛情ない。心底嫌いなこと多い」

 1991年より週刊ポストにて、政治家、芸能人から無名の市民にまで容赦ない刃を向けてきたやくみつる氏の連載『マナ板紳士録』が5月21日発売の同誌で連載1000回目を迎えた。いまやコメンテーターとして引っぱりだこのやく氏が、この1000回を振り返る。

 * * *
 1000回というのは、今回いわれて初めて気づきました。実は、連載ページの右上に回数がちゃんとカウントされているのも、今しがた気づいたばかりでして。それぐらいこれまで連載回数というものを意識しませんでした。

 それと同様、世間様の『マナ板紳士録』に対する評価や評判も意識していません。ただ、たまに勘違いはされますけど。たとえば、連載の中で特定の人物をあしざまにあげつらったりすることがあります。そういう場合に、その対象を批判はしていても、やくさんのそこはかとない愛情が感じられますね、と指摘する方もいるんです。でも、それ、まったく違いますから。

 愛情なんてカケラもなく、単にその人物が心底嫌いなケースも往々にしてあります。たぶん、あいつのことが嫌いだっ、と常日頃から決めつけてしまうのは、私自身が仮想敵を作っておかないと、力が出にくいタイプの人間だからでしょう。イヤな性分ですよね。つまり、それがあるときは亀田親父だったり、朝青龍だったり、最近ではDeNAの春田会長だったりするわけです。

 で、これも勘違いしてほしくないのですけど、常に仮想敵を作るようになったのは、漫画家になってからではないんです。自分は漫画家というチンピラな稼業を生業にしていますが、もともとの性分というか、生きている上での根本にあるのは“石部金吉”(※注)なんです。生真面目で融通が利かないんですよ。

 思い返せば、高校生のとき、出席簿順に年に2回ほど週番が回ってくるんですが、自分の番になるまで、学校生活のあちらこちらに目を光らせ、情報を蓄えておく。たとえば、学友の悪事――だれだれクンは学校の許可なしにバイクの免許を取っているとか、なになにクンは、体育館の裏でタバコを吸っていました、と週番の責任としてそれらを先生に報告していたんです。

 そりゃそんなことをすれば、怨まれますよね。直接、暴力をふるわれないまでも、不良連中から靴を隠されたり、「お前、いちいち学校にチクってんじゃねえ」と文句をぶつけられていましたよ。だけど、私はそんな脅しでメゲない。逆に、文句をいわれるたび、そもそも規則を守っていないお前たちがいけないんだろう、と闘志をかきたてられ、それこそ学友のあんなことやそんなことまで“報告ノート”に書いていました。

 だから、自分なりの“石部金吉”の規範から外れる行動を取ったり、発言をする人物は許せなくなってくるのですね。その典型が『マナ板紳士録』でも何度も取り上げましたが、朝青龍だったりするわけです。

 いや本当に、受容できないんですよ、自分の尺度では。そもそも清濁あわせのむという言葉が嫌いなんです。清いのは飲めますけど、濁ったものは飲めません。それはでも、裏を返すと、私が非常に狭量な人間であることの証明でもありますけどね。

 だいたい私より狭量なやつは見たことがありません。ただし、自分でいうのもなんですが、私の中に息づいている“石部金吉”は偏屈ではなく、しごくまっとうな常識に立脚したもので……。常識が非常識に見えてしまう、世間のほうが悪いっ!

※注/石部金吉(いしべきんきち=きわめて物堅い人。融通のきかない人 『広辞苑』より)

※週刊ポスト2012年6月1日号

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