興行ではほぼ毎日ネタを替えている春風亭一之輔
割れんばかりの拍手で高座に迎えられたのは、今春21人抜きの大抜擢で真打に昇進した落語家・春風亭一之輔(34)。落語協会の柳家小三治会長に「久しぶりに見た本物」といわしめた逸材だ。
演目は『青菜』。仕事先のお屋敷でしゃれた酒肴をごちそうになったうえ、夫婦間の粋な会話に感心した植木屋が、長屋に戻ってその真似をしようとする噺で一之輔の十八番ともいわれている。
5月23日に新宿・紀伊國屋ホールで行なわれた新刊『噺家のはなし』(小学館)の出版記念で催された落語会でのひとコマである。同書は、「いま聴いておくべき落語家50人」を厳選、その経歴や持ち味、聴き所を愛情たっぷりに綴っている。
同書によると一之輔の特徴は、〈垂れた眉が醸し出す物憂げなムードと、人を突き放すようなクールな態度から繰り出される、毒を含んだ強烈なギャグ〉。また、自らの豪快な芸風を「部室落語」と呼んでいるが、それはいわば〈男子校のノリ〉と解説する。
さて落語会の後に行なわれたトークショーでは、来春の真打昇進が内定した三遊亭きつつきが、当日の演目『代書屋』を桃月庵白酒から教わったと明かし、「同じ噺も演者が違えば、味付けが変わる」ということを体現。世代交代を繰り返しながら受け継がれる大衆芸能。個性豊かな噺家たちによって、吹き込まれる魅力は尽きないのだ。
撮影■丹羽敏通
※週刊ポスト2012年6月8日号