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橋下徹市長の政治手法 リーダーシップと呼べこそ独裁ではない

 日々存在感を増す橋下徹・大阪市長が繰り広げる〈橋下劇場〉の真骨頂は連日繰り広げられる識者、テレビ、新聞、雑誌とのバトルだ。橋下氏は記者たちの批判に間髪入れずにツイッターや会見でカウンターパンチを浴びせ、言い負かされた側は「今日はこのくらいで勘弁してやる」と新喜劇の悪役よろしく引き下がる。だが、そうした論争の論点を整理してみると「橋下独裁批判」の裏側にある批判勢力の矛盾が浮かび上がってくる。

 リベラル陣営が大きな問題とするのが「君が代起立斉唱条例」や「教育基本条例」だ。「教職員の思想・良心の自由を侵害している」「教育現場への政治介入はあってはならない」といった論調で批判は繰り広げられている。一方の、保守系側は、主に橋下氏が掲げた「原発再稼働反対」や「消費増税反対」の姿勢に対して、批判を展開してきた。

 メディアと識者、そして橋下氏の掲げる政策を整理してみると興味深い事実が浮かび上がる。

 保守系側から批判を受けてきた「原発再稼働反対や消費増税反対」は本来、リベラル陣営からすれば歓迎すべき政策であり、逆にリベラル系が非難する「君が代起立斉唱や教育基本条例」などは、本来、保守陣営からは支持されるはずの政策である。

 このことが何を意味するか。第一は、「既得権を液状化させる」と宣言した橋下氏は左右のどちらかに立脚した従来型の政策立案をしていないということを示している。

 教育制度改革や職員基本条例で教職員組合、自治労など左派の既得権にメスを入れる一方、電力自由化や原発再稼働反対によって保守政界の支持基盤だった電力業界の既得権にも風穴を開けようとしている。日本の政界では66年体制の崩壊後も、保守・革新(リベラル)の両陣営が既得権を分け合い、なあなあの国家運営が今日まで続いてきた。その仕組みそのものに橋下氏は戦いを挑んでいるという構図がはっきりわかる。

 昨年の大阪ダブル選挙で橋下氏の対立候補である平松邦夫・前大阪市長を民主、自民党から共産党まで相乗りで支援したように、既成政党も左右両メディアもそれを恐れているのだ。

 だから、不思議な現象が起きる。

 リベラル系は橋下氏の「君が代」を目の仇にして批判するが、かといって自分たちの主張と一致する原発再稼働反対の動きを評価して後押ししようとはしない。保守系は橋下氏の再稼働反対論に噛みついても、教育改革には援軍を送ろうとしない。批判すべきポイントばかりを強調し、是々非々でチェック・監視するという姿勢は取らないのだ。

 そして、両陣営とも橋下氏と方向が一致する本来支持すべき政策を含めて「進め方が独裁的だ」と政治手法にすり替えて批判しているのである。

 ぶら下がり会見での記者とのやり取りやテレビ討論の政策論争はほとんどが橋下氏の勝利か優勢に終わっている。これらのバトルの中には必ずしも論争として噛み合っていないものもあるが、橋下氏のディベート術によって視聴者、有権者には「橋下よく言った」という支持が広がっていく。

 その結果、既得権を失うことを恐れる左右の勢力は、彼らにとって「危険な改革者」である橋下氏を国民から切り離そうと、なりふり構わぬ「独裁者」「ヒトラー」批判をエスカレートさせている。

 だが、橋下氏は選挙で有権者の支持を得た改革を、議会を通じて実現している。その政治手法はリーダーシップと呼べこそすれ、決して独裁ではない。

※SAPIO2012年6月27日号

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