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五輪日本代表選手の約半数が愛用するマットレスパッドが品薄

 元々は釣り糸や魚網を作る射出成型機械を製造していた会社の生み出した寝具が売れている。ヒットの端緒となったのがオリンピックに出場するアスリートたちによる口コミだった。

 高岡本州(ウィーヴァジャパン取締役社長)は、テレビのオリンピック中継を連日、食い入るように見つめていた。ロンドンへ向かった代表選手293人のうち、同社のマットレスパッド『エアウィーヴ』を愛用する約150人のアスリートの活躍が気になってしょうがなかった。

 話は2004年に遡る。父が興した日本高圧電気(配電機器のトップメーカー)の2代目社長を継いでいた高岡は、叔父が経営していた中部化学機械製作所の後事を託された。かつて、魚網や釣り糸を作る機械の製造で一時代を築いた会社だったが、当時は下請けでクッション材を製造していた。

「下請けの辛いところはお客さんの声を直接聞けないこと。赤字体質から脱却できない悩みもありました」

 ちょうどその頃、宇宙飛行士用に開発された素材を基にした欧州の「テンピュール」の低反発素材の寝具が注目を集めていた。

「低反発は体を優しく支えるが、起き上がる、寝返りを打つ、というときは何の力も貸してくれない。うちの極細繊維状樹脂なら押されても復元する力が働くから、寝返りが楽で、体への負担を軽減できるはずだ」

 高岡はマットレスパッドなら現行の設備でも製造可能だと判断した。200個の試作品を作って知人にモニターを依頼した。

「“腰が軽くなった”などの声が寄せられ、評判は上々。これは売れる! と思い、商品化しました」

 開発に1年を費やし、2007年6月、インテリアの大きな展示会に出展し、新聞や雑誌に広告をうった。全国からの問い合わせに対応するためのコールセンターも設置した。発売日当日、電話は殺到すると手ぐすね引いて待っていた。

 しかし、電話は1本もならない。売れたのは1か月でわずか2枚。惨敗だった。

「絶対いいものだという自信がありましたからショックでした。でも社長が弱気になってはいけない。絶対売れる! いずれ売れる! と信じていました」

 転機となったのは2010年のバンクーバー五輪だ。腰痛に悩む上村愛子を含むモーグル選手団が愛用したことで、一気に口コミが拡散。選手団94名のうち70名が選手村に『エアウィーヴ』を持ち込んだ。

 この時、初めて地元名古屋のテレビ局から取材を受ける。既に多くのアスリートから絶大な支持を受けるという、これ以上ない実績があった。ようやく一般向けの売り上げが伸び出す。

 ここで同社はフィギュアスケートの浅田真央にイメージキャラクターを要請する。浅田は3年前からの愛用者。大会に向かう空港で手の甲に「マットレス」という文字が書かれていたのをテレビカメラがキャッチ。『エアウィーヴ』を遠征先に持っていくのを忘れないためのメモであることが話題を集めていた。

 2011年度の売上げは11億円、2012年度に至っては40億円強を見込むほどのヒット商品となった。今では注文から手元に届くまで約2か月という品薄状況だ。

■取材・構成/中沢雄二

※週刊ポスト2012年8月10日号

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