国内

大津いじめ事件 自殺した子供が入学説明会で大写しになった

 滋賀県大津市のいじめ自殺問題の裏には、徹頭徹尾、自己保身と組織防衛で動く「お役所の論理」があった。ジャーナリストの鵜飼克郎氏が、役人たちの“事なかれ主義”の実態を報告する。

 * * *
 昨年10月と11月の2回、学校は全生徒対象のアンケート調査を行なった。調査結果から市教委は「いじめはあったが、自殺との因果関係は不明」という都合のいい見解を発表。今年7月に公になって問題となった「葬式ごっこ」「自殺の練習」などの内容は公表されなかった。

 調査における事なかれ主義は生徒たちの証言からわかる。「アンケートは名前を書いても書かなくてもいいと言われた。先生は名前を書いた人は後で詳しく話を聞きたいと言っていた。それでも名前を書いた人はたくさんいたし、私も書きました。先生から呼ばれればいじめのことをちゃんと話そうと思っていたけど、呼び出しは一切なかった」(中2女子)  

 実名を書いた生徒たちの勇気は黙殺された。

 文科省の指針に沿って市教委はアンケートを行なわせたが、生徒が実名を書き、さらに直接見聞きした情報のみが聞き取り調査の対象になった。また、加害者3人からの聞き取りは事前に保護者の同意を得ることにしたところ1回しか同意が得られず、いじめを否定され調査は終了した。

 真相の究明より、「文科省の指針に沿って調査をした」というアリバイ作りが優先されたと言われても仕方ない。行政機関として手続きに瑕疵がなければいいという発想だからこうなる。

 調査が打ち切られた4日後の昨年11月6日、澤村憲次・大津市教育長はオーストラリアのモスマン市へ出発した。大津市訪問団の一員として3泊5日の海外視察だった。帰国後、同17日の市教委定例会議での澤村教育長の報告では、「モスマン市の皆さんと交流を深めることができました」という視察の話が先にあり、自殺の件は最後に回された。

 しかも会議の議事録によれば、「先月11日に発生した市内中学生の死亡事故に関わって、(中略)家庭との連携、あるいは、教職員の協同性について、私のほうから指導したところです」という表現で、いじめはおろか自殺であることさえ印象づけない“役人答弁”だった。

 以後、事件は「過去のもの」として扱われた。この春に皇子山中学に入学した1年生女子の母親が言う。 「今年2月頃に入学前説明会があり、学校紹介の映像を見せられました。クラブ紹介で卓球部の映像が流れた時、自殺したお子さんの練習風景が大写しになったんです。それもかなり長い時間でした。隣に座っていたお母さんと『こんなん映していいの』と話したのを覚えています」

 この母親は自殺した生徒と小学校時代の学童保育で顔見知りだったが、学校側の配慮のなさに驚いたという。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン