夫が妻の能力を見抜いたことでサクセスストーリーを歩んだ女性も多い。「私が社長です」のキャッチフレーズと、ド派手な衣装で知られるホテル界の風雲児、アパホテルの代表取締役社長、元谷芙美子さん(65才)もそうだろう。
アパホテルは、全国に169棟のホテルを展開し、年商は372億円に達する。5年前には京都市内の2つのホテルで耐震強度不足が発覚。構造計算をした設計事務所や検査機関に落ち度があるものだったが、報道による風評被害で売り上げが急落した。しかし、その後は安全を検証し、V字回復している。
福井市生まれの芙美子さんは小さいころから口が達者で、表舞台に立つのが好きだった。高校を卒業した後は、手堅く地元の信用金庫に就職したが、その時代に知り合った夫・外志雄さん(69才、アパグループ代表)に天性の営業の才を見出された。
ふたりは1970年に結婚。翌年、夫が独立し、不動産・ホテル業を手がけるようになる。芙美子さんは2人の息子を出産し、育児に励みながらも、会社の取締役として営業の最前線にも立った。
「売れっ子の芸者さんに、一戸建てを売るため、深夜の1時まで待って明け方5時に契約したことも。とにかく命がけで売りました」(芙美子さん)
しかし、1980年代に創業したホテル事業は赤字すれすれ。1994年、夫は子育てがひと段落した妻に白羽の矢を立てた。
「おまえ、社長やれ。おまえにはその才能がある」
夫からそういわれ、ホテル事業の立て直しを託された芙美子さん。持ち前の営業手腕で3年後に東京進出を果たすと、思い切った賭けに出た。
「なんとか知名度を上げるための作戦はないかと思いついたのが、“私が社長です”の広告だったんです」(芙美子さん)
新聞広告や電車の中吊り広告を、自らのどアップの顔写真でジャック。「大手広告代理店の偉い人からは“史上最悪の広告だ”といわれましたけど」と芙美子さんは笑い飛ばす。
だが、インパクトは抜群で、割安な客室料金が周知され、同社の売り上げは急成長。元谷夫妻の収入・資産も跳ね上がった。いまの資産額は「天文学的数字でよくわからない」といい、年収は芙美子さんだけで約5億5000万円、保有する邸宅は計3軒。東京では西麻布の500平方メートルの土地に建てた3階建て8LDKという超が付く大豪邸で暮らしている。
「ただし無駄遣いは嫌い。トレードマークの帽子は230個ほど持っていますが、たいていはバーゲンで買った品。普段着はユニクロ。私、ユニクロ銀座店の超お得意様ですのよ」と芙美子さん。
※女性セブン2012年8月23・30日号