国内

元民間出身校長 教育委員会と学校の親分・子分関係を問題視

 大津のいじめ事件を受け、政府は文科省内にいじめ問題に取り組む専門チームを新設した。しかし、教育界の構造的問題を放置したまま「いじめ対策」を掲げても、対症療法にすらならない。かつて東京都で義務教育初の民間人校長となり、辣腕を振るった藤原和博氏(東京都杉並区立和田中学校・前校長)が、淀んだ教育界に風穴を開ける策を提言する。

 * * *
 現在の教育システムの始まりは連合軍総司令部(GHQ)による教育改革だ。GHQは学校教育が日本の軍国主義化を推し進めたとして、権限を徹底的に分散。教育行政の主体を国から地方へ移譲しただけでなく、首長から独立した機関として教育委員会を設置した。自治体の首長は、自らの選挙で「教育は私の責任ではありません」と言って当選する人はいない。だが、現実は教育委員会に命令する権限がない。

 つまり、実質的に国が教員の人件費の大部分を出し、都道府県・政令市教委の事務方トップである教育長が人事権を握り、自治体は学校の設置者として教材や施設などの責任を負うという、権限の3重構造が出来上がっている。これでは誰が最終的な責任を負うのか、よくわからない。

 また、教委が独立しているということは、同時に閉鎖的であることを意味する。身内意識が強い中で純粋培養された教員がそのまま校長になるため、教育長(市区町村ではほとんどが校長経験者)と親分・子分の関係になりやすい。当然の帰結として、教育委員会と学校は馴れ合いに陥る。学校に問題が生じた時には「事なかれ」の意識が働く。隠蔽に走る背景には、構造的な庇い合い体質があるのだ。

 戦後60年以上にわたり温存され、放置されてきた組織の構造的問題は、教育内容にも影を落としている。

 効率重視の高度成長時代には、いち早く「正解」に到達する能力が重視され、学校教育は読み書き計算といった「情報処理力」の正確さを重視した。その成果として、優秀なホワイトカラーやブルーカラーが大量生産された。もちろん、その時代にはこれは正しかった。

 しかし、すでに日本は「成長社会」から「成熟社会」へ移行した。多様で複雑化した成熟社会においては、問題に対して答えは一つではない。誰も正解を決められない以上、状況によって知識や教養を応用し、自分や周りの人が納得できる答え――私はこれを「納得解」と呼ぶ――を導くための「情報編集力」こそ必要とされている。

 ところが、旧態依然たる構造的問題を抱えた組織のまま運営されている学校教育は、こうした本質的な社会変化に対応できていない。

 教育内容にしろ、いじめ問題にしろ、一般社会の抱える歪みが、一番弱い学校という場所に噴出している。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《追突事故から4ヶ月》広末涼子(45)撮影中だった「復帰主演映画」の共演者が困惑「降板か代役か、今も結論が出ていない…」
NEWSポストセブン
殺害された二コーリさん(Facebookより)
《湖の底から15歳少女の遺体発見》両腕両脚が切断、背中には麻薬・武装組織の頭文字“PCC”が刻まれ…身柄を確保された“意外な犯人”【ブラジル・サンパウロ州】
NEWSポストセブン
山本由伸の自宅で強盗未遂事件があったと報じられた(左は共同、右はbackgrid/アフロ)
「31億円豪邸の窓ガラスが破壊され…」山本由伸の自宅で強盗未遂事件、昨年11月には付近で「彼女とツーショット報道」も
NEWSポストセブン
佳子さまも被害にあった「ディープフェイク」問題(時事通信フォト)
《佳子さまも標的にされる“ディープフェイク動画”》各国では対策が強化されるなか、日本国内では直接取り締まる法律がない現状 宮内庁に問う「どう対応するのか」
週刊ポスト
『あんぱん』の「朝田三姉妹」を起用するCMが激増
今田美桜、河合優実、原菜乃華『あんぱん』朝田三姉妹が席巻中 CM界の優等生として活躍する朝ドラヒロインたち
女性セブン
東日本大震災発生時、ブルーインパルスは松島基地を離れていた(時事通信フォト)
《津波警報で避難は?》3.11で難を逃れた「ブルーインパルス」現在の居場所は…本日の飛行訓練はキャンセル
NEWSポストセブン
別府港が津波に見舞われる中、尾畠さんは待機中だ
「要請あれば、すぐ行く」別府湾で清掃活動を続ける“スーパーボランティア”尾畠春夫さん(85)に直撃 《日本列島に津波警報が発令》
NEWSポストセブン
宮城県気仙沼市では注意報が警報に変わり、津波予想も1メートルから3メートルに
「街中にサイレンが鳴り響き…」宮城・気仙沼市に旅行中の男性が語る“緊迫の朝” 「一時はネットもつながらず焦った」《日本全国で津波警報》
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月16日、撮影/横田紋子)
《モンゴルご訪問で魅了》皇后雅子さま、「民族衣装風のジャケット」や「”桜色”のセットアップ」など装いに見る“細やかなお気遣い”
夜の街での男女トラブルは社会問題でもある(写真はイメージ/Getty)
「整形費用返済のために…」現役アイドルがメンズエステ店で働くことになったきっかけ、“ストーカー化した”客から逃れるために契約した「格安スマホ」
NEWSポストセブン
大谷家の別荘が問題に直面している(写真/AFLO)
大谷翔平も購入したハワイ豪華リゾートビジネスが問題に直面 14区画中8区画が売れ残り、建設予定地はまるで荒野のような状態 トランプ大統領の影響も
女性セブン
休場が続く横綱・豊昇龍
「3場所で金星8個配給…」それでも横綱・豊昇龍に相撲協会が引退勧告できない複雑な事情 やくみつる氏は「“大豊時代”は、ちょっとイメージしづらい」
週刊ポスト