“立ち上がる”“歩く”“走る”“曲げる”…など、日常生活の中で欠かせない動作の原動力となっているのが大腿筋。ところが大腿筋の老化のスピードは、大臀筋や腹筋、背筋と並んでもっとも速い。
老化は止められるの? 簡単に鍛える方法は…? 東京大学大学院筋生理学・トレーニング科学専門で“筋肉博士”ともいわれる石井直方さんに聞いた。
まず、前提として、筋肉量は30才をピークに減少しはじめ、40代半ばからそのスピードは加速。なかでも大腿筋の老化は深刻で、30~70才までの40年間で、前側(大腿四頭筋)は2分の1、後ろ側(ハムストリングス)は3分の2にまで落ちることが実証されている。
「前側の筋肉が弱くなると“椅子から立ち上がれない”“転びそうになっても体を支えられない”などの弊害が出てきます。骨との関係も重要。骨は、筋肉を使えば使うほど刺激を受けて強化されます。基本的に、太ももの筋量が多い人ほど骨の強度も高い。一方、筋肉が衰え、活発に動けなくなると骨への刺激も減るため、骨粗鬆症などによる転倒や歩行困難、最悪の場合は寝たきりになることも少なくありません」(石井さん・以下「」内同)
大腿筋を活性化させるうえで歩くことは大事だ。ところが、“鍛える”となると、ウオーキングや散歩だけでは足りないという。
「歩けなかった人が歩けるようになれば、筋肉が鍛えられて太くなったといえます。ところが、歩行に問題のない人が“いまの筋肉を維持しよう”、“将来的に衰えないようにしよう”という目的でウオーキングをしても不充分。普通に生活してよく歩く人でも、残念ながら大腿筋はどんどん弱くなります」
とはいえ、ジムに行ったり、マシンを使ったり…となるとなかなか続かない。自宅で気軽に鍛えられる方法はないだろうか。
「体の重さを負荷にした効果的な筋トレとして立証されたのが、スロートレーニングです。何才から始めても効果が出ますし、正しく続ければ10才ほどは筋量を戻すことも可能。体の重さだけなので負荷としては軽すぎるため、すべての動作を“ゆっくり、止めずに、連続して行う”ことが鍵。筋肉が力を発揮している時間を引き延ばし休ませない。これで筋量が増えます」
駅の階段や坂道などの昇降は、積極的に使えば太腿筋にとって良い刺激になる。暑い中、大汗をかくのが嫌なら下りだけでも徹底して歩こう。
「“降りる”動作は、大腿筋にとって比較的強い刺激になると同時に、前の筋肉がブレーキとして機能していることを認識できます。階段を降りることが怖くなってきたら、筋量が落ち非常に危険な状態です。生活が便利な時代だからこそ、あえてしんどい選択をすれば体が鍛えられます。電車やバスでは“座らず立つ”が基本です」
※女性セブン2012年9月6日号