国内

野田首相 解散に踏み切るかは自民総総裁選の結果次第の見方

 7日、野田佳彦首相は尖閣諸島や竹島など領土をめぐる対応に万全を期すため、当面は解散に踏み切る考えのないことを強調した。解散をめぐる首相の戦略を、東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。(文中敬称略)

 * * *
 マスコミが「今秋にも」と報じてきた「近いうち解散」がどうもご破算になりそうな雲行きだ。そのあたりを産経新聞が野田佳彦首相の発言を引いて、いち早く伝えている。

「与野党ともにいろいろなことを言っているが、しかるべき時に、やるべきことをやった後に信を問うという姿勢は変わっていない」(9月2日付)

 しかるべきことが何かと言えば「外交や領土・領海の問題を加え、来年度予算編成にも意欲を示した」(同)という。予算編成もやるとなると、解散は年明けまで遠のく。すると「近いうち」は「来年のしかるべき時」という話になる。

 ここへきて野田が一転、解散先送りの気配を漂わせ始めたのは、自民党が消費増税反対を理由にした首相問責決議案に賛成し、事実上、民主、自民、公明の3党合意の枠組みが壊れてしまったからだ。口では「壊れた」と言わないが、増税に合意した自民党が一転、反対に回ったのだから、枠組み崩壊は明々白々である。

 谷垣禎一自民党総裁の再選もほとんど絶望的になった。本稿を執筆している9月5日現在、派閥のボスである古賀誠元幹事長の支持が得られず、総裁選出馬すら危うくなっている。

 もともと民主党内は早期解散反対が大勢だ。3党合意が破談になったうえ、相手の大将も表舞台から消えるとなれば「なにも無理して解散する必要はない」となるのは自然である。

 そもそも野田にとって最優先課題はなにか。それは「次の総選挙で大敗しても、政権の一角に残る」――すなわち自公民政権の樹立である。選挙に負けて政権からも滑り落ちてしまえば、待っているのは民主党の「流れ解散」しかない。そんな結果が分かっているのに、解散するのは自爆テロにもならない。単なる自殺行為である。

 いまや自民党は握った手を離し、公明党も問責決議に欠席してポジションを中立に変えた。となれば、野田は解散を来年まで先送りし、再び時間稼ぎ戦術に転じる可能性が出てきた。

 ただ、いつまでも先に延ばせるわけではない。自民党が赤字国債の発行を可能にする特例公債法案に賛成してくれないと、政府が金欠病に陥って首が回らなくなるからだ。

 財務省は地方交付税の支払いを遅らせるなどして、なんとか金繰りをつける意向だ。それでも常識的に考えれば、ぎりぎり年末までだろう。来年1月の通常国会が始まっても、まだ本年度の国債発行ができないのでは、とても来年度予算を議論するどころではない。結局、野田が粘ったところで年末までとなる。

 野田にとっては、谷垣が退場しても次の自民党総裁が自公民連立路線を選んでくれれば、今秋の解散を選ぶ道も残っている。それなら野田民主党は政権に残れるからだ。逆に民主党との連立をはっきり否定している安倍晋三元首相が総裁に選ばれると、これは「悪夢のシナリオ」である。「選挙に負けて、政権からも追い出される」結果になるからだ。

 結局、野田が秋の解散に踏み切るかどうかは自民党総裁選の結果次第とみるのが合理的だ。自分を連立相手に選んでくれそうな総裁が誕生するなら解散してもいいが、そうでないなら時間稼ぎしか選択肢は残っていない。

 以上は「民主党の敗北」が大前提である。新聞は選挙前に特定政党の敗北を前提にするような話を書きにくい。だが今回は一歩踏み込んでみないと、政局の展開が分かりにくくなる。先の産経記事は面白かった。ここは、どの新聞が突っ込んで書いていくかに注目する。

※週刊ポスト2012年9月21・28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

モデル・Nikiと山本由伸投手(Instagram/共同通信社)
「港区女子がいつの間にか…」Nikiが親密だった“別のタレント” ドジャース・山本由伸の隣に立つ「テラハ美女」の華麗なる元カレ遍歴
NEWSポストセブン
米大リーグ、ワールドシリーズ2連覇を達成したドジャースの優勝パレードに参加した大谷翔平と真美子さん(共同通信社)
《真美子さんが“旧型スマホ2台持ち”で参加》大谷翔平が見せた妻との“パレード密着スマイル”、「家族とのささやかな幸せ」を支える“確固たる庶民感覚”
NEWSポストセブン
高校時代の安福容疑者と、かつて警察が公開した似顔絵
《事件後の安福久美子容疑者の素顔…隣人が証言》「ちょっと不思議な家族だった」「『娘さん綺麗ですね』と羨ましそうに…」犯行を隠し続けた“普通の生活”にあった不可解な点
デート動画が話題になったドジャース・山本由伸とモデルの丹波仁希(TikTokより)
《熱愛説のモデル・Nikiは「日本に全然帰ってこない…」》山本由伸が購入していた“31億円の広すぎる豪邸”、「私はニッキー!」インスタでは「海外での水着姿」を度々披露
NEWSポストセブン
優勝パレードには真美子さんも参加(時事通信フォト/共同通信社)
《頬を寄せ合い密着ツーショット》大谷翔平と真美子さんの“公開イチャイチャ”に「癒やされるわ~」ときめくファン、スキンシップで「意味がわからない」と驚かせた過去も
NEWSポストセブン
生きた状態の男性にガソリンをかけて火をつけ殺害したアンソニー・ボイド(写真/支援者提供)
《生きている男性に火をつけ殺害》“人道的な”窒素吸入マスクで死刑執行も「激しく喘ぐような呼吸が15分続き…」、アメリカでは「現代のリンチ」と批判の声【米アラバマ州】
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン