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落合博満氏が球界のタブーである長嶋茂雄氏に立ち向かった日

「長嶋監督を胴上げできなかったら、末代までの恥です」

 1993年オフ、フリーエージェント制度元年に権利を行使し、中日から巨人へ移籍した落合博満氏が入団会見で語った名言である。この言葉通り、落合氏は翌1994年に巨人を4年ぶりの優勝に導き、長嶋茂雄監督は宙に舞った。野球人である落合氏にとってミスタープロ野球・長嶋茂雄は、憧れの存在だった。

 だが、2004年のアテネ五輪前に、2人の間に亀裂が走ろうとしていた。「日本代表に各球団2人ずつ選手を派遣する」とオーナー会議で承認されたあとに、代表監督に就任していた長嶋氏がその枠を撤廃しようとしたのだ。

 これまで語られなかった当時の真相が、9月2日に群馬で行なわれた講演会で、落合氏自身の口から漏れた。

「長嶋さんは、(春季キャンプのとき)私のところに来ました。あの人にモノをいえる人はほとんどいません。俺は平気だからね。まして、良いものは良い、悪いものは悪い。

 みんな、長嶋さん王さんがいえば通るモノだと思っているんだろうけど、俺は中日ドラゴンズという球団を預かる監督として、ある程度決まったことをなしにして、勝手なことをされるというのは……。

 俺も、長嶋さんにいったの。『監督、ねえ』『なんだ、オチ』『監督、いっていることはわかりますよ。五輪でメダルを獲りたい、最強のチームを作りたい、それはそうだよね。それは俺もわかる。だったら、なんで、オーナー会議で各球団に、人数異なるかもわからないけど協力してくれ、と諮って、承認してもらわなかったの?』」

 長嶋監督は球界では神様扱いされ、ミスターのいうことなら何でもオーケーという空気があった。しかし、落合氏は自分の意見を伝えた。

「オーナー会議っていうのは、野球界で最高の決定権のある場所だよ。中日の選手を4人も5人も出せといったら、俺どうやって戦うんだこのチームで。『この騒動をおさめるためには、監督が一言いわなきゃダメだよ。最初に決まった通りに、各球団から2人ずつ24人の選手を持っていって、五輪で戦ってきます、と監督がいってくださいね』『うん、わかった』といったんだよ」(落合氏)

 落合氏の進言通り、アテネ五輪の代表選出は各球団2人ずつとなった。

 国際試合になると、ファン側も指揮する側も、代表の立場からしかモノを考えられなくなる傾向がある。しかし、ペナントレースが続く以上、各球団を預かる監督はモノをいう権利がある。落合氏はみずからの意見を曲げず、“長嶋茂雄”という球界最大のタブーに立ち向かったのだった。

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