ゴルフの歴史の中には、伝説として語り継がれる“死闘”がいくつか存在する。1979年に開催された日本女子プロゴルフ選手権もその1つ。岡本綾子と大迫たつ子が死闘を繰り広げたこの試合について、プロゴルファー・森口祐子氏はこう語る。
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今も日本女子プロゴルフ界の“世紀の一戦”と語り継がれているのが、この大会です。3日間競技、それもメジャー競技で岡本綾子プロが17アンダーをマークし、15アンダーの大迫たつ子プロを振り切っての優勝でした。3位の樋口久子プロが4アンダーですから、2人のスコアがいかに突出していたかがわかっていただけると思います。
私は1オーバーの11位タイでしたが、難度の高いコースで行なわれるメジャー競技はパープレーが基本といわれ、1日にスコアを1つずつ伸ばせば優勝争いに絡めるというのが常識でした。ところが、岡本プロがバーディを奪えば大迫プロが奪い返すというバーディ合戦を繰り広げる。
2人だけ別のコースでプレーしているかのような「異次元のゴルフ」を見せつけられました。同じコースでプレーする競技者でありながら、ギャラリーとして引き込まれてしまったのは、後にも先にもこの試合だけです。
6278ヤード、パー74と当時の女子では距離のあるコースで行なわれたにもかかわらず、岡本プロも大迫プロも初日に4アンダーの70、2日目には9アンダーの65を出しています。大迫プロにとって「日本女子プロ」は悲願のタイトル。それまでに23勝し、国内ツアー連続予選通過を10年以上続けていたが、どうしてもこのタイトルだけは手が届かなかった。
最高のコンディションで臨んだ大迫プロの前に立ちはだかったのは岡本プロでした。米女子ツアー挑戦を目指す岡本プロにとっても複数年シード権が与えられるメジャーは手に入れておきたいタイトル。お互いに負けたくないという気持ちがぶつかり合い、それが驚異的なスコアにつながっていったのです。
ゴルフは約束された結果が出ないスポーツです。毎週違うコースと天候の中でプレイするため、優勝の翌週に予選落ちということも少なくありません。そこでコンスタントな力を発揮するには、ライバルの存在が不可欠です。大迫プロと岡本プロはまさに好敵手だった。それを証明するかのように、この大会の翌年は岡本プロを抑えて大迫プロがタイトルを手にしています。
※週刊ポスト2012年10月12日号