親の話を聞かない、夜遊びして家に帰ってこない、学校に行かずに部屋に引きこもる、親に向かって「死ね」と毒づく、非行に走る……。悩みの程度の差こそあれ、子を持つ親なら誰しも「自分の子育てははたして正しかったのか?」と思うことがあるに違いない。
「三つ子の魂百まで」という諺があるが、育児は「乳幼児の頃に決まる」というのが定説だ。
「幼児教育の世界では、0~9歳までは『原体験期』といわれ、ここでの経験がその後の成長に大きな影響を及ぼすといわれています。子供はこの時期に、親や保育者など周囲の大人たちに可愛がってもらう中で、“親や大人を信頼する”“友達と2人遊びをする”などといった、成長に必要な課題を順々にクリアしていきます」
こう話すのは、愛知学泉短期大学幼児教育科の角田春高教授である。この頃に子供たちは、生きている実感を持ち、安心感や人に対する信頼を育み、会話ができるようになり、友人ができて、学習意欲を持つようになる。人との遊びを通じてコミュニケーション能力を伸ばしていくのも、この時期の大切な課題のひとつだ。
「その後の9歳頃から20歳くらいまでの『自我確立期』には、それまで親が自分にしてくれたことを客観視できるようになり、大人になるためにしっかりした“自分”を身につける作業が始まります」(角田教授)
ところが乳幼児期の課題をきちんとクリアできなかった子供は、自我を確立するためのベースがなく、10代になってさまざまな問題を抱えることになってしまう。子供たちへの教育が年齢を重ねるほど難しくなっていくのはそのためだ。
しかし、あきらめてはいけない。小学校高学年や中高生になってからでも、子供たちを正しい方向に導くことは可能である。この概念を「育て直し」といい、教育の現場で実践している専門家も現われている。
前出の角田教授は、『“今”からはじめる「育て直し」』(エイデル研究所)などの著書もあり、長年にわたり「育て直し」について研究を重ねている。
同教授は断言する。
「育て直しに取り組むのは何歳からでも遅くありません。実際に私が関わった中にも、家庭内暴力や不登校など、深刻な状況を克服した中高生がたくさんいるのです」
※週刊ポスト2013年1月25日号