国内

五輪金メダル3回実況した人間国宝級に凄い元NHKアナの教え

競技データをエクセルを駆使して整理する住田洋さん

 幾多の歴史と感動を伝えてきたスポーツ中継。フリーのアナウンサーとしてCSなどでスポーツ実況をしている元テレビ愛媛アナウンサーの住田洋さんが、「人間国宝に指定して欲しい」という実況名人アナウンサーと、中継媒体が増殖するなかで求められる実況について語る。

 * * *
 アナウンサーにとって一番怖いのは“黙る”ことです。とても勇気がいります。それなのに、野球中継で9回裏ツーアウト満塁の大チャンスでも、ずっと黙って試合映像に入り込ませる実況アナウンサーがいます。元NHKの島村俊治さん(71)です。

 島村さんは、1988年ソウル五輪での鈴木大地さんなど、金メダル実況を3回もされている大先輩です。70歳を過ぎていらっしゃいますが、声は20年以上前と変わりません。今もCSなどで耳にする実況は、バスケットボールのようにスピーディな反応が求められる競技でも、年齢も古さも感じさせません。そして、絶妙のタイミングでぴったりの内容を喋るのです。まさに名人で、人間国宝に指定してほしいと思っています。

 直接、島村さんから指導された経験がある先輩の話によれば「その競技をたくさん見なさい」と言われるそうです。よく分からなくても、練習でも試合でも、とにかく多くの時間を割いて見ること。そして競技をよく知ることが大事だとおっしゃるそうです。

 競技をよく知ることは、実況アナウンサーにとってますます必須の素養になるでしょう。というのも、スポーツ中継は地上派、BS、CS、インターネット放送、そして2月からJ SPORTSでも始まったPC、スマホ、タブレット向けのオンデマンド放送と、ますます多チャンネル化しているからです。

 新しいメディアでのスポーツ中継が増えれば、新しい視聴者層が生まれます。新しい手段を使ってまで中継を見てくださる皆さんは、競技の知識が豊富な人です。その人たちが満足するような中継を私たちは目指します。実況アナウンサーにも、これまで以上に豊富な知識と丁寧な取材が求められます。

 いま痛感しているのは、英語と、競技データをまとめるためのエクセルがないと仕事が進まないということです。欧州ラグビーなどの実況準備に、英語は欠かせません。そして、選手やチームのデータをエクセルへ入力しては、試合に合わせて抽出します。さらに、試合映像をひたすらコマ送りして選手の顔を覚え、名前をスラスラ言えるようにします。読みにくい外国人選手の名前を簡単そうに言うのは、気持ちいいですね。

 スポーツは人生の縮図です。スターもいれば地味に支える人もいて、ベンチに入れない人、応援団など様々な立場の人がいます。中継を見ている人は、大半が縁の下の力持ちであって、スターではない。だからこそ、華やかなスターにあこがれるのでしょう。

 自分について考えても、やっぱりヒーローじゃない。ヒーローにもあこがれますが、個人的に親しみをおぼえる地味な存在の選手も気になるので、どちらも取材してデータも集めます。そして、普段はなかなか詳しく取り上げられない地味な存在の人が活躍したときには、しっかり伝えます。実況アナウンサーの仕事っていいなあ、と感じる瞬間のひとつですね。

 実況を担当して4シーズン目になるラグビーにも、サッカーと同じように4年に1回、ワールドカップが開催されます。次回は2015年にイギリスで、その次は2019年に日本で開催予定です。世界最高峰の試合を、ぜひとも実況したいと思っています。

 現在、五輪はテレビ局のアナウンサーでなければ実況できないのですが、昨年のロンドン五輪から、パラリンピックはフリーアナにも担当する機会ができました。未来はどうなるかわかりません。五輪実況のチャンスが巡ってきたら、ぜひ、私も実況したいと願っています。

■住田洋(すみだ ひろし) 1974年生まれ。大阪府出身。テレビ愛媛に10年半勤務したのち2009年からフリーに。J SPORTSラグビー実況、前橋競輪中継司会、全国高校野球選手権大会栃木県大会(とちぎテレビ)実況などスポーツに限らず、『夕なび 湘南~横浜』番組内の「ざっくぅ対決」コーナーでは、子どもとゆるキャラ”ざっくぅ”のPK対決実況も。バレーボールのC級審判資格を持つ。趣味はトライアスロン、鉄道の旅。株式会社ジョイスタッフ所属。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
3大会連続の五輪出場
【闘病を乗り越えてパリ五輪出場決定】池江璃花子、強くなるために決断した“母の支え”との別れ
女性セブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン