ライフ

地下鉄で携帯つながると大声で話す迷惑客が再び出てくるのか

優先席付近では携帯の電源OFFを呼びかけている

 3月21日正午を境に東京地下鉄株式会社(東京メトロ)のほぼ全線で、携帯電話が利用可能になる。つまり、トンネル内を走行中でも携帯がつながるようになるのだ。走行中やトンネル内でも携帯電話を利用できるようにする整備は、東京だけの動きではない。大阪市営地下鉄や名古屋市営地下鉄でも走行中の携帯利用可能エリアを広げており、トンネルが多い山陽新幹線なども整備を進めている。

 導入理由のひとつに「スマートフォン利用のお客様が多いこと」(東京メトロ広報)があるというが、今回の設備増強によってインターネット接続やメールの送受信だけでなく、遠慮するよう呼びかけている通話も可能になってしまう。通話については遠慮するよう、これまで通り協力を呼びかけるというが、不安は消えない。

「携帯電話がつながってしまったら、話すことを止められないのではないかという恐れは残ります。せっかく車内で声高に通話する人がほとんどいなくなったのに、また迷惑乗客が増えるのではないか。しばらくは、携帯の通話に関するクレームが増えるかもしれません」

 と、十年前の苦労が忘れられない一部の鉄道関係者は、内心、戦々恐々としている。

 優先席付近では携帯の電源を切り、車内での通話はなるべく遠慮するという通勤通学電車の利用方法は、車内アナウンスで繰り返され、ステッカーやポスターでもお馴染みのフレーズだ。なぜ、この呼びかけがされるようになったのか。それは、携帯電話の普及に、使い方が定まり広まるスピードが追いつかなかったからだった。

 そもそも、携帯電話が一般に普及したのはこの20年ほどのこと。総務省の調査によれば、1995年度は約10%だった携帯電話普及率は、それから5年を待たずに50%を超え、2011年度末は94.5%に達した。携帯電話の利用に慣れていなかった1990年代には、その使い方をめぐって鉄道会社に多くの苦情が寄せられていた。

 日本民営鉄道協会が実施している「駅と電車内の迷惑行為ランキング」をみると、初めてアンケートを実施した1999年の結果では、回答者のうち25.9%もの人が「携帯電話の使用」、着信音や大きな声で話しているのが耳障りだと訴えている。2位の「座席の座り方」の約3倍にものぼる、断然の迷惑行為だった。

 苦情が多かった携帯電話の利用方法について、2003年までは鉄道会社によってバラバラの内容で使い方を訴えていた。それを、2003年8月に関東17の鉄道事業者が、2004年1月に関西20の鉄道事業者が内容を統一した。以来、一部の例外はあるものの基本的には「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください。それ以外では、マナーモードに設定の上、通話はご遠慮ください」という訴えになっている。

 地道な訴えかけが功を奏したのか、2004年発表の迷惑行為ランキングでは「携帯電話の使用」が初めて1位を「座席の座り方」に譲り、昨年12月発表の2012年ランキングでは5位となった。1位に「騒々しい会話・はしゃぎまわり等」、3位に「ヘッドホンからの音もれ」と、音に関する迷惑行為が上位にあるのは変わりないが、携帯電話に関わるあれこれが独壇場という時代は過ぎ去った。

 だが、つながってしまえば思わず、あるいは必要に迫られて電話に出てしまう人が増えても不思議ではない。特に、日本の流儀を理解しない外国人観光客が電話に出ることは止められないだろう。

 一方で、同じ鉄道関係者の間でも、事態を楽観視する向きもある。例に挙げられるのは、東海道新幹線のアナウンスが変わったことだ。

 携帯への苦情が多かった時代は、東海道新幹線でも「座席での携帯電話のご使用は、周りのお客様のご迷惑となりますので、ご面倒でもデッキでお願いします」とアナウンスしていた。ところが、トンネル内でも携帯が使用できるよう整備を始めた2003年10月からは、デッキへ出ての携帯利用を促す呼びかけをしていない。操作音や着信音を消すマナーモードが普及した今、必要ないと判断されているためだ。

「今では、混雑した通勤電車のなかで大声で話す人はまず見かけません。電話を受けても小声で後でかけ直すと伝えている。マナーを訴える各社のアナウンスに対し『分かり切っているから止めてくれ』という声が寄せられることもあるほどです。東海道新幹線はビジネス客が多いですから、携帯利用マナーも浸透しているのでしょう」(日本民営鉄道協会広報)

 ちなみに、2010年にコーネル大学が実施した実験によれば、他人の携帯電話の会話を聞かせたときの集中力は、片方の声しか聞こえない場合に比べて格段に落ちるという。人間は会話の断片から内容を予測するので、会話の片方だけを聞かされるとイライラし、ストレスを感じるのだ。

 電車で電話がフルにつながるようになり、針がどちらにふれるのかは、事態を見守るしかない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン