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「大洋ホエールズ」 オーナーに窮状訴えれば年俸が上がった

 大洋漁業(現マルハニチロ水産)は、もともとノンプロの強豪チームを持っていた。プロ球団を作ったのは、2リーグ分裂を受けて選手の引き抜きが横行し、当時のオーナー・中部謙市が腹を立てたためだ。

「それならプロ球団にしたら引き抜かれないだろう。鯨を一頭分余分に捕れば、選手の給料は賄える」

 大洋漁業の主製品・鯨からとって、チームの愛称は「ホエールズ」。本拠地は、捕鯨基地のある下関市に置いた。一時松竹と合併した時期もあったが、オーナーの熱意に支えられ、成績が悪くても球団を維持し続けることができた。当時を知る投手・鈴木隆が語る。

「オーナーの個人商店みたいな感じでしたね。例えば査定で年俸を下げられた時なんか、オーナーに“親父さん、食えないすよ、何とかして下さいよ”というと、ポンと年俸が上がった。選手を息子のようにかわいがってくれていました」

 補強にもカネを惜しまなかったが、とにかく弱かった。ただ一時期、優勝争いを3度も演じたことがある。

 それは1960年、西鉄3連覇の知将・三原脩が監督に就任した時のこと。前年の最下位から一気に優勝を果たし、日本シリーズでも大毎オリオンズに4連勝で日本一を達成。その後も1年置きに阪神と首位を争ったが勝ちきれず、そのうちにチームは再びBクラスに低迷し始める。

 1978年に本拠地を川崎から横浜に移転。港町・横浜のスマートなイメージということで、1985年に就任した近藤貞雄監督が高木豊・加藤博一・屋敷要と足の速い選手を中心にした「スーパーカートリオ」を売り出したが、成績は変わらなかった。

 1992年に大洋漁業がマルハに社名を変更すると同時に、球団名から企業名を外し、ニックネームも港町にちなんでベイスターズに変更。「一企業が球団を維持する時代ではない」という当時の球団社長の英断で、市民球団化を目指した。

 その後、横浜が沸いたのは、現役時は「権藤・権藤・雨・権藤」と謳われた中日の剛腕・権藤博を監督に迎えていた1998年。サイン無し、バント無しの自主性野球で、石井琢朗・鈴木尚典・ローズらの個性派がイキイキプレーする「マシンガン打線」が炸裂し、“大魔神”佐々木主浩の活躍もあって日本一に輝いたのだ。

 三原監督が秋山登・土井淳・岩岡保宏・沖山光利・黒木弘重の明大5人衆、そして近藤昭仁・桑田武らを自由自在に操って川崎の街を沸かせてから実に38年の時が流れていた。

(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年4月5日号

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