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男が死ぬまで暴行する大女たちが住む島の伝説を収録した書

【書評】『海を渡った人類の遥かな歴史 名もなき古代の海洋民はいかに航海したのか』(ブライアン・フェイガン著/東郷えりか訳/河出書房新社/3045円・税込)

〈本書の物語は1492年にコロンブスがバハマ諸島に上陸する以前に(中略)終わる〉

 大航海時代に歴史的な航海者が世界を探訪するより遥か昔から、世界中の島々に人類は移り住んでいた。では、古代の無名の民はいつ、どのように未知なる海に乗り出したのか。著名な人類学者が世界各地をフィールドワークし、古老の話を採取し、伝説を解読し、人類の航海史を描いたのが本書だ。

 著者によれば、沿岸航行しか経験のなかった人類が、生きるために新たな土地を求め、最初に意図的に水平線の彼方に向かったのは5万年余り前。東南アジアの狩猟民がニューギニア、オーストラリアに渡り、太平洋南西部一帯に入植した。

 その後、紀元前1500年以降、今度はポリネシア人の祖先である農耕民(ルーツ未確定)がトンガ、サモアなどの西ポリネシアに到達し、最終的にハワイ、ラパ・ヌイ(イースター島)、ニュージーランドを含む広大な東ポリネシア一帯に広がった。彼らが使ったのは筏やカヌーに帆を張った船。季節風を利用して進路を定め、太陽、月、星によって自らの位置を測り、波の変化によって未知なる陸地の存在を察知したという。

 太平洋に続き、紀元前8000年頃に航海が始まったエーゲ海など世界の他の海についても描かれ、ポリネシア人の先祖は、男を見つけると死ぬまで性的暴行を加える大柄の女たちが住む島があると信じ、古代マヤ族は海を「冥界の底なし海」と捉えていたなど、興味深い伝説も数多く紹介される。

 海の「グレートジャーニー」についての本格的な著作は珍しく、あらためて海の偉大さと恐ろしさを思うと同時に、そこに飛び出した人類の勇気と智恵に感心する。

※SAPIO2013年8月号

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