スポーツ

楽天球団マジック点灯 年間97敗から「スピード出世」の軌跡

 8月28日、楽天イーグルスに球団として初めて優勝マジック「28」が点灯した。創設時から同球団を取材し続けてきたフリーライター・神田憲行氏が語る。

 * * *
 球団創設9年目にして、楽天イーグルスに初めて優勝マジック「28」が点灯した。9年前、私は50年ぶりに新規参入した球団のルポを書くため、毎月仙台詣でを続けていた。それをまとめた「97敗、黒字 楽天イーグルスの1年」(朝日新聞社刊)を改めて読み返していて、感慨にとらわれた。

 9年前の8月28日は西武ライオンズに敗れ借金が50になった。29日も日本ハムに負けて、「全球団負け越し最下位」が早くも決定している。そんなチームがマジックを点灯させるとは……。あのころの負けっぷりを考えてみると、9年で優勝に手が届くところまで来たとは、スピード出世だといいたい。ちなみに創設時から在籍している現役選手は、投手では小山伸一郎、野手では高須洋介、牧田明久、中島俊哉だけだ。フロントの人間も、新陳代謝の激しいIT企業の親会社の社風を反映しているのか、かなり入れ替わっている。

 補強も、当初は三木谷浩史オーナーの「プロ野球ビジネスは、出て行くときは億単位、入るときは100円単位」という言葉から察する通り、かなり慎重だった。初代助っ人外国人のルイス・ロペスの年俸は5000万円だった(推定、以下同じ)。それが現在の躍進を支えているマギーが1億円、ジョーンズは3億円である。「安物買いの銭失い」から大きく方針転換したのが功を奏した。といっても、私は球場まで自転車を漕いでやってくる陽気なアメリカンのルイロペが大好きだったが。

 このチームを語る上で「3.11」は欠かせない。

「見せましょう、野球の底力を」

 という嶋基宏のメッセージは聞く者の心を揺さぶった。あの瞬間から、嶋は名実ともにこのチームのリーダーになったと思う。野村監督時代、試合中でも直立不動で監督から説教されていた嶋ではもうなかった。

 9年間、選手もフロントも変わっていく中で、唯一、変わらなかった存在がある。ファンである。

 私が最初に会った楽天ファンは、初年度の開幕前、神宮球場で行われたオープン戦だった。仙台からやってきたというお婆さんは、「おらほの球団」がどんなチームなのかひとりで見に来て、しきりに「立派だねえ」「有り難いねえ」と繰り返していた。千葉マリンスタジアムでの開幕戦では、応援団のトランペット演奏がうまく行かず、相手のロッテの応援団から「もし良かったら……」と教えられながら応援した。

 阪神タイガースとの仙台での交流戦では、阪神球団の幹部から、

「うちと試合をして、うちのファンが球場の半分を超えなかったのはこちらだけですよ」

 という変な褒められ方(?)をしたと楽天野球団幹部は笑っていた。

 「3.11」後のホーム開幕戦では、国歌斉唱に起立して、そっと涙を拭くファンの姿があった。勝って田中将大投手に「ありがとう!」と泣きながら絶叫しているファンもいた。

 マジック点灯にチーム内では「目の前の試合をひとつずつ勝つだけ」という冷静な声がある。マジックはついたり消えたりするものだから当然だ。最後までペナントをしっかり走りきって、ファンたちに優勝の美酒をもたらして欲しい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン