国内

元飛行隊操縦員「戦場で生きたい本能を殺すのは苦衷の極み」

 いまや、総人口の8割近くが戦後生まれ。太平洋戦争を直接知る者は年々減り、当時の実態を証言できる者は限られてきた。今でこそ、あの大戦を振り返るべく、元日本軍兵士たちの“最後の証言”を聞いてみた。

 証言者:大澤昇次(93) 元海軍攻撃252飛行隊操縦員

 大正9年生まれ。昭和10年、横須賀海兵団に入団。13年、霞ヶ浦海軍航空隊に入隊。18年、艦上攻撃機操縦員として空母「翔鶴」に乗り第一次ブーゲンビル島沖航空戦などに参加した。戦争体験を綴った著書『最後の雷撃機』(潮書房光人社刊)がある。

 * * *
 雷撃機は3人乗りで、操縦、偵察、通信をそれぞれ分担する。敵艦の進行方向や速度を計算し、魚雷が到達する1分後の位置を予測して発射するから、雷撃は難しい。

 初めての出撃は昭和18年11月5日夜。ブーゲンビル島沖の米艦隊を攻撃するため九七式艦上攻撃機で飛び立った。我々が出撃するのは常に夜間で、レーダーに映らないよう海面スレスレを進んだ。

 月のない闇夜だった。突然、敵弾が幾重にも飛んできた。敵艦船の速力も進行方向もわからないまま夢中で魚雷を発射し、帰還した。命中したかどうかもわからず、「戦争とはこんなものか」とフワフワした気持ちだった。

 5日後、2回目の攻撃ではじっくり偵察して1艦に突っ込んだが、エンジンに被弾。プロペラがスルスルッと空回りした。「もうダメだ」と思い、我ながらあきれるほど簡単に死を決意して、海面に激突すべく舵を切った。

 直後、機長で偵察員の渡辺譲大尉が「待て!」と叫んだ。それで我に返りなんとか着水。暗闇の海でゴムボートに乗り移ったが、どの道、助からないそう思った矢先、2㎞ほど先にうっすら島影が見えた。必死になって水を掻き、翌朝島に着いて九死に一生を得た。

 その後、19年10月の台湾沖航空戦や11月のフィリピン沖戦など何度も出撃した。「敵艦に3度雷撃して生還した者はいない」と言われたが、幸運が重なって生き残った。

「戦時中の日本人は強かった」と言われるが、決してそんなことはない。私自身、もし特攻を命じられたら……と脅えたこともある。特攻で悲壮な死を遂げた戦友らも、口には出さなかったし、遺書にも書いていないが本当は怖かったと思う。戦場で「生きたい」という本能を殺すのは本当に苦衷の極みだった。

●取材・構成/清水典之(ジャーナリスト)

※SAPIO2013年10月号

関連記事

トピックス

大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
「What's up? Coachella!」約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了(写真/GettyImages)
Number_iが世界最大級の野外フェス「コーチェラ」で海外初公演を実現 約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン