ライフ

上野千鶴子 ピル解禁20年、バイアグラ解禁3か月の意味説く

【書評】『〈おんな〉の思想 私たちは、あなたを忘れない』上野千鶴子/集英社インターナショナル/1575円

【評者】柳亜紀(弁護士)

「弁護士にはフェミニズムの感覚に欠けた人が多い」と言うと意外だろうか。離婚裁判で、共働きなのに妻の帰宅時間が遅いと非難したり、「女の弁護士は怖い」などと酒席で盛り上がる弁護士がいるくらいだから驚くことでもないのかもしれないが、正直、ため息をつくことは多い。

 1980年代の男女雇用機会均等法改正をピークに、最近ではフェミニズムは勢いをなくし、「少子化を招き、家族の解体を促す」と考える保守派が巻き返している印象がある。そんな今、ジェンダー(社会/文化的な性のあり方)研究の第一人者である著者が、自身に多大な影響を与えた11人の作家や学者を「読者にも読んでもらいたい」と、改めて論じたのが本書だ。

 20世紀最大の批評家E.サイード(1935-2003 エルサレム生まれの評論家で、元コロンビア大学教授)のオリエンタリズム理論を、著者がジェンダーに当てはめて分析する箇所が印象的だ。サイードは当時の“東洋”研究が「東洋についての“西洋の”思考様式」にすぎないことを批判し、概念を180度覆した。

 西洋は東洋にエキゾチックさを求め、知性や思想を持つことは認めない。まさに、それは男と女の関係に読み替えられる。あくまで男性が“主体”で、女性が“客体”である限り、その本質は権力関係にほかならない。「女性は偉大だよ」などと妙に女性を褒めたたえる男性に感じる違和感はここにあったのか、と納得できる。

「中絶の自由」に関する記述も興味深い。ウーマンリブ(女性解放運動)のおかげで現在の日本では事実上、中絶を選択できるが、実はいまだに女性には法的な権利がない。堕胎罪(刑法212条)が存在し、優生保護法上の「経済的理由」という例外規定の拡張解釈によって中絶できるだけ。

 女性が自分自身の体をどうするか決めるのは国なのだ。また、ピルが日本に紹介されてから20年も販売が許可されず、一部解禁後も医師の処方箋が必要という厳しさだったのに対し、バイアグラの解禁までの期間はおよそ3か月。〈男の性は肯定され、女の性はコントロールされる〉という言葉がずっしりと響く。

 フェミニズムを学ぶ意味は、“無自覚”に気づく点にあるとつくづく実感する。「思考停止するな」という著者の熱いメッセージを一人でも多くの人に受け取ってほしい。

※女性セブン2013年10月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン