ライフ

柔軟剤の「香害」問題 背景に匂いにワガママな人の増殖あり

 ブームの後には反動が訪れるのが常だが、ちょっと珍しい展開になっているのが「柔軟剤問題」である。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 NHKのニュースや新聞が大きくとりあげ、社会問題化した「香害」。今大人気の、衣類に香りが残る洗濯用柔軟剤についての相談が国民生活センターで増えているとか。

 人工的な香りが原因で気持ちが悪くなったり、頭痛や吐き気がする、というケース、「ああ、あるある」とうなずいた人も多いのでは。柔軟剤の使用方法については、4人に1人が規定の量の2倍を超えている、という業界団体の調査結果もあるようです。

 国民生活センターは、香り付きの柔軟剤を使いすぎないよう消費者へ呼びかけました。同時に、業界団体に対して、過度な使用を控えるよう商品に表示したり啓発活動を行ったりするように要望したそうです。

 職場で他の人の柔軟剤の香りに悩まされる。レストランで料理の風味やワインの香りをじっくり楽しみたいのに、衣服の香りが気になってしまう。近所に干してある洗濯ものから漂う強すぎる香りが苦痛、という訴えまであると聞きました。心理的な苦痛だけでなく、体調が悪くなったりする化学物質過敏症の訴えも切実だと新聞は伝えています。

「強い芳香臭をかいだ。意識がなくなってその場にうずくまった。顔面が蒼白になり、言語機能の極端な低下、筋肉硬直などの症状が出た」(東京新聞2013年9月2日)。

 他人の体調にまで影響するとなると「たかが香り」ではすみません。ご存じのように、健康増進法はタバコの煙についてこう定めています。

「人がたくさん集まるところでは、分煙する努力をしなければならない」

 そのうち「人がたくさん集まるところでは、『分香』する努力をしなければならない」となる日が来るのかも。

 今回の香害問題。その根底に「匂いワガママ」の増殖がありはしないでしょうか? 「匂いワガママ」とは、柔軟剤や香水は「良い」匂いとし、その他はすべて「クサイ」と決めつけること。自分が好きな匂いはOK、「芳香」はたっぷりと十分すぎるほど身につける。一方で、匂いのするものは「くさい」「悪臭」と嫌悪し、消臭に走る。

 そうした「匂いワガママ」の増殖現象。一粒で二度おいしい思いをしているのは、もしかしたらメーカー側かもしれません。なぜなら、香が残る柔軟剤と消臭剤、匂いワガママな人は両方を買ってくれるのですから。

 ふと、知り合いのお父さんの言葉を思い出しました。

「小学生の息子に、動物園に行こうと誘ったら、クサイからいやだと断られた。その言葉がとてもショックでした」

 生命活動と匂いは切っても切り離せないはず。暮らしの中にあるさまざまな匂いを、一律に「クサイ」と毛嫌いする子どもたちが増えていくとしたらどこかおかしい、とお父さんは嘆いていました。

 他人のことを顧みずプンプンと人工的な「芳香」を発散する今回の問題と、動物園はクサイ、と嫌う子どもたち。その2つはどこか根底でつながってはいないでしょうか? すべてをコントロールしたい、コントロールできる、という操作幻想。いよいよ、匂いと暮らしの関係について、原点から問い直してみる時期が来たのかもしれません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン