東京・新宿のネオン街
欲望渦巻く新宿・歌舞伎町では、日々、多様な事件が起きている。新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏は、「店や女性キャストと客との間のトラブルの中でも、『本番』に関するごたごたは多い」と話す。
日本の法律では、性風俗店における本番行為は売春防止法違反や不同意性交等罪に問われる可能性がある。それでも起きるトラブルについて、歌舞伎町のお膝元にある紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。【全3回の第1回】
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弁護士は、相談にやって来た人の言葉に対してフラットに耳を傾けるところから始めなければならない。
「デリ嬢を呼んだんです」
依頼者は、51歳の電気工事士。千葉在住だが、デリバリーヘルスを利用したのは、出張先の沖縄だった。私は、依頼者が泊まった日付とホテルの名前を確認した。依頼者は、ルームナンバーまで覚えていた。
「仕事を終えて、皆で飲んで、帰ってきて。それから電話しました。電話して、15分ぐらいで来たと思います」
店名や店の電話番号、対応したキャストの源氏名を確認する。彼女は「ユウ」と名乗った。オフホワイトのジャージだけでなく、キャップとスニーカーまで、すべてFILA。しっとりした艶のある茶髪は肩にかかるぐらいの長さでパチンと切り揃えられ、まるでKポップのアイドルのような目鼻立ちをしていたそうだ。
「ちょっとびっくりしました。見た目20歳ぐらいで、そんなに太ってもいなくて。顔はデリヘルとは思えないぐらい可愛かった」
風営法上もその存在が認められているデリヘルは、法的には「無店舗型性風俗特殊営業」と呼ばれる。「人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの」と定義されており、簡単に言えば、客のいる家やホテルに「性的サービスを提供する者」を送り込むビジネスである。