認知症患者を取り巻く家族の苦労やしんどさは、これまでも多く取り上げられてきた。だが、肝心の患者たちがそのことをどう捉えているかは、窺い知ることができなかった。このたび公開されたウェブ上の「認知症の語りデータベース」サイトは、そのことに初めて向き合っている。
「ああ……あのー、うん、僕的にはね、平気でした。あの、まあそれは全然オーケーだなと思いました。認知症そのものっていうのは、認知症っていうのはそれなりに認知症というものとして、それはそこにあって全然不思議ではないものとして考えることができる、と思いました。だから、それはそれで、いいだろうと思います。今もそう思います」
大学で教職に就いていた男性(同サイトのインタビュー時:57歳)は、54歳でアルツハイマー型認知症と診断されたときの気持ちをこう語っている。
この7月からNPO法人「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」のウェブサイトでは、こういった認知症患者7人と介護家族35人に対するインタビューを「語りデータベース」として公開している。近親者に患者がいたとしても、十分に聞くことができなかった認知症患者本人の生の声は衝撃的だ。
これまで認知症というと、「徘徊する」「暴力的になる」といったステレオタイプなイメージで語られることが多かった。しかも、介護家族からの話はあっても、患者本人が自らの状況や気持ちを語ったものを目にすることはほとんどなかった。
認知症が進むと、会話が困難になることが多い。ただし、初期の頃は、自分自身にもの忘れなどの症状が起きていることを自覚し、その不安や葛藤を語ることができる。
公開されたインタビューは、言葉を選びながらも、自らの症状を淡々と語る様子が非常にリアルだと話題になっているのだ。
これら患者や家族に対するインタビューは、富山大学大学院医学薬学研究部の竹内登美子教授(老年看護学)をリーダーとする研究チームが行なっている。その目的について、竹内教授はこういう。
「認知症とはどういう病気であるかを正しく知ってもらうことです。最近は、家族の方たちが『介護うつ』になるケースが増えていますが、むやみに恐れず、正しい知識と適切な対処法を知ることで負担を軽減することができるのです」
自分が認知症になったら、あるいは家族が認知症になったらと想像すると、不安感ばかりが先に立つが、それは認知症の正しい姿を知らないからかもしれない。
当事者たちの声を聞けば、認知症にもさまざまあり、症状や進行も異なることがわかる。それに対して患者や家族がどう対処しているかも知ることができるのだ。
データベースは、患者の家族でも「実父・実母を介護する人」「舅・姑を介護する人」などの立場別に分かれ、認知症もアルツハイマーその他のタイプ別に情報を得ることが可能となっている。
※週刊ポスト2013年10月11日号