芸能

鈴木史朗氏 「国のためにとサムライ母に厳しく育てられた」

 母はどんな時も無償の愛で包んでくれた。その偉大さを知ったのはいつのことだったか。慈母の記憶はいつも、懐かしい温もりとともに甦る。ここでは、フリーアナウンサーの鈴木史朗氏(75)が母・テルさんとの思い出を振り返る。

 * * *
 とにかく厳しかったという思い出しかありません。母には可愛がってもらった記憶がない。一言でいえば、“サムライ”の母でした。

 ウチは京都・上賀茂神社の社家で、神社を守護する武士の家系。ですから、母は私に「武士の心得を叩き込む」という意識が強かったように思います。

 これは時代背景も大きかったですね。私は1938年生まれ。戦時中ですから、母とすれば長男を武士の末裔として「お国のために立派に死ぬ男」に育てなければならないと覚悟を決めていたようです。厳しくすることで“子離れ”しようとしていたのでしょう。

 母の教育は儒教が説く5つの徳目の「仁義礼智信」でいう、信の代わりに誠実さの“誠”と勇気の“勇”が入る感じ。武士道の根幹のようなもので、「弱きを助け強きを挫け」、「曲がったことはするな」とかそんなことばかり教えられました。

 まさに獅子が我が子を千尋の谷に突き落とすが如くで、文字通り、階段の上から蹴飛ばされて下まで転げ落ちたこともあります。それでも、「立って上ってこい」という母でした。

 そのおかげで鍛えられ、私の人間性も形成されました。アナウンサーとしてTBSに入社してからも、義に反する物事には憤りを感じて、上司であろうと意見をしました。でも父が早くに亡くなり、男社会である会社組織での振る舞い方を教わる機会がなかったためか、衝突も多かった。

 会社組織特有の陰湿な“いじめ”に遭ったこともありますし、報道局時代には、ある大物司会者の偏った報道姿勢に異を唱えたために、数日後に番組を外されました。それでも耐えることができたのは、「どんな辛いことにも耐えるのが男だ」という、母の教えが支えになったからだと思っています。

 母は「昭和の苦労」を1人で背負った女性でした。父が日中合弁の貿易会社を設立した関係で、私は幼少期を中国で過ごしました。しかし終戦と同時に父は中国政府から身に覚えのないスパイ容疑をかけられ、全財産没収のうえ拘束された。その状況のまま母は長男の私と、まだ小さい妹2人、3人の子供を連れて日本へ引き揚げることになります。

 北京から天津の港まで120kmを歩きました。当時小学2年生だった私に妹2人の手を引かせて、母は「お父さんの代わりだ。しっかりしろ!」とハッパを掛けた。母だって心細かったはずです。でもぐっと涙を堪え、口を真一文字に結んだ姿は忘れられません。

 母は87歳で他界しました。晩年は私が介護をして最期を看取ることができました。父が58歳の若さで亡くなっていたので、亡くなる直前に母は、「こんなに醜くなった姿でお父さんに会いたくない」といっていました。

 2人は当時としては珍しく、周囲の反対を押し切っての大恋愛で結ばれていたんです。私が、「大丈夫。向こうでは20歳の若さに戻るから安心して」と語りかけると、ホッとしたような安堵の笑みを浮かべ、目を閉じました。その安らかな表情に優しい母の顔を見ました。

■鈴木史朗(すずき・しろう):京都府生まれ。TBSアナを経て独立。現在は講演活動を中心に活躍中。

※週刊ポスト2013年11月8・15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
決定戦で横綱を下した安青錦(写真/JMPA)
【最速大関・安青錦の素顔】ウクライナを離れて3年、なぜ強くなれたのか? 来日に尽力した恩人は「日本人的でシャイなところがあって、真面目で相撲が大好き」、周囲へ感謝を忘れない心構え
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
主演映画『TOKYOタクシー』が公開中の木村拓哉
《映画『TOKYOタクシー』も話題》“キムタク”という矜持とともにさらなる高みを目指して歩み続ける木村拓哉が見せた“進化する大人”の姿
女性セブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト
CM露出ランキングで初の1位に輝いた今田美桜(時事通信フォト)
《企業の資料を読み込んで現場に…》今田美桜が綾瀬はるかを抑えて2025年「CM露出タレントランキング」1位に輝いた理由
NEWSポストセブン
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン
アスレジャー姿で飛行機に乗る際に咎められたそう(サラ・ブレイク・チークさんのXより)
《大きな胸でアスレジャーは禁止なの?》モデルも苦言…飛行機内での“不適切な服装”めぐり物議、米・運輸長官がドレスコードに注意喚起「パジャマの着用はやめないか」
NEWSポストセブン
(左から)小林夢果、川崎春花、阿部未悠(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫の余波》女子ゴルフ「シード権」の顔ぶれが激変も川崎春花がシード落ち…ベテランプロは「この1年は禊ということになるのでしょう」
NEWSポストセブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン