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GD賞イプシロン ロケット発射コストは世界平均の半分で済む

 2013年度のグッドデザイン賞で、一般からの投票数ではグーグルマップの2752票に次ぐ2232票という人気を集めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケット「イプシロン」が金賞を受賞した。そのイプシロンロケットのプロジェクトマネージャー、森田泰弘氏が計測展2013でおこなった特別講演で、未来へつながる次世代技術が搭載された日本の固定燃料ロケットと、世界の常識を覆してきた歴史を語った。

 人気漫画『宇宙兄弟』にあるように、有人無人問わずロケットを打ち上げるには100人を超える人や何日も時間をかけるのが常識だった。ところがイプシロンではPC2台とたった8人で、ほとんど瞬時に終わる点検で発射できる。多くのケーブルで広い管制室と繋ぐのが常識だった5年ほど前、森田さんがたった1つのイーサネットでロケットと繋がるモバイル管制イメージ図を国際会議で披露したときは『できっこない』と笑われたという。

「外国からは『何の意味があるんだ』とも言われました。でも今年、イプシロンの打ち上げが成功した9月末に北京での国際会議に出席すると、スタンディングオベーションで迎えられました。みんな成功をお祝いして笑っていましたけれど、悔しそうでした。とても気持ちよかったです(笑)」

 9月14日に打ち上げが成功した新型ロケット「イプシロン」の特徴はロケットそのものだけでなく、打ち上げシステム全体がコンパクトであること。打ち上げる行為全体をダウンサイジングして大幅なコスト減を実現した。

 同じ固体燃料ロケットである前身のM-Vロケットに比べ、イプシロンの打ち上げコストはおよそ2分の1の約38億円。9月に発射したぶんは開発費がかかっているためこれより高いというが、世界のロケット発射の平均的コストが70億円程度と言われているなか、驚きの安さだ。今後は、さらにコストを低減する開発を目指しているという。

 ホールの客席をみて「一緒に開発に取り組んできた仲間も聞きに来てくれていますね」と言いながら、森田さんはイプシロンの特徴について話を続けた。

「宇宙ロケットはこれまで性能を上げることと信頼性が最優先で、ものすごく性能が良いが運転が大変な、乗り心地が悪いF1レーシングカーのようなものでした。でも今、われわれが目指すのはそこそこ性能がよく運転も簡単、乗り心地がよい高級乗用車。F1のような大きなロケットも必要ですが、小型、高性能、低コストなロケットで宇宙へのチャンスを増やし飛行機ぐらい身近なものを実現したいと考えています」

 イプシロンが固体燃料ロケットであることも、大きなコスト減の理由であるという。

「ロケット開発の場合、時間もお金も半分以上はエンジン開発にかかります。ですが、あらかじめ酸化剤と還元剤が練り込んである固体燃料なら、野球場で飛ぶジェット風船のようにガスを噴射して飛んでいくため液体燃料のように大きなエンジンを開発する必要がありません。そのぶん、モバイル管制など他の部分の開発に力を費やせます」

 それでも固形燃料のみだと衛星を正確な軌道に載せるのが難しいため、イプシロンの場合は小さい第4段ロケットだけ液体燃料のエンジンを搭載し、ハワイ上空とチリ上空の2回、エンジンをふかしてわずか数キロの誤差で世界初の惑星観測専用人工衛星「ひさき」を最終軌道に載せた。

 今でこそモバイル管制を利用するイプシロン方式は未来につながる次世代技術と胸を張るが、2006年にコスト高を理由にM-Vロケットの廃止が決まった時には、開発責任者だった森田さんをはじめプロジェクトチームの皆は、ここで日本の固体燃料ロケットの歴史は終わってしまうのかと落ち込むばかりだったという。だが、日本のロケット開発史をなぞるように逆境をばねに新プロジェクトをスタートし、宇宙開発の未来を拓いた。

「糸川英夫先生が始めたペンシルロケットの実験以来、日本は世界を驚かせる挑戦にいつも取り組み、ほぼ純国産の技術で世界最高性能と言われるものをつくってきました。固体燃料ロケットの世界では我々が引っ張っていくんだと考えています」(森田さん)

 世界から置き去りにされていると思いがちな宇宙開発分野だが、2017年にイプシロンロケットのプロジェクトチームが目指している月着陸実験を楽しみに待とう。

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