ホテル従業2人への暴行容疑で逮捕され、仙台中央署で取り調べ中に脱走したドイツ人、シューツ・ペトロ・ウラジミロビッチ容疑者(25)。後にヘリの出動、総勢3400人の捜査員が行方を追っても男が逃げおおせたのは、「ひとえに東北人の優しさによるものですよ」と捜査関係者は苦笑する。
それを如実に示すのが逃走時とは全く異なる出頭時の服装である。逃亡から26時間後、多賀城駅から数km離れた沿岸部の七ヶ浜の竹林に潜伏していた同容疑者は、疲労と空腹を訴えて近隣の交番に出頭した。
この時、同容疑者は青いシャツに紺色のブレザー、下は黒のスラックスで足下は野球のスパイクを履いていたという。捜査関係者は続ける。
「取り調べでは服は、それぞれ『もらった』といっています。何人か提供した人も名乗り出ているし、盗まれたという連絡もきていない」
多賀城市でガラス屋を経営する男性は、そうした“善意”の一人だった。
「作業場にいきなり外人が『エイゴワカリマスカ』って来てよう。そして『ジャケット、ジャケット』って寒そうに体をさすって手を合わせていたんだよ。作業用の青いシャツがそこにあったから、『ほらよ』って渡してやったんさ」
現在、県警で確認中だが、近所の民家でも同じようにして、服や靴を手に入れた模様だ。しかし住民たちは突然の来訪者、それも大柄な白人男性に、疑いの目をむけなかったのか。前出のガラス屋経営者は答える。
「そんな悪いヤツには見えなかったなぁ。寒そうにして困っていたんだからね。そりゃ、東北人ならずとも日本人ならみんな助けるよ」
■取材/小川善照
※週刊ポスト2013年12月6日号