「そのあいだ、父・秀樹は鍋が噴きこぼれないか見張りをし、やがてあらかた肉と骨は溶けた。だが溶け残った骨もある。それをハンマーで砕き、こまかく骨片にし、浴室内の排水溝に投棄した。ずんどう鍋は浴室内で洗った。
そして翌日、阿部親子の秀樹と卓也は、溶け残った大きな骨をスポーツバッグに詰め、秋川へ投棄に行った。このとき、川原でバーベキューをしていると装うために、犬と一緒に篤子も同道させた」
警視庁捜査一課は、土田の携帯を壊して埋めた容疑で、玄地と阿部を逮捕した。だが、本当のヤマは、殺人、死体遺棄である。何度も取り調べたが、男たちは否認しつづけた。
刑事は、あきらめず、かつてない実験も繰り返した。人間の肉に見立てた豚肉と骨をアルカリ性の掃除液=業務用洗浄液=苛性ソーダに浸して経過を観察した。肉も骨もゆっくり溶けた。これなら、人間の肉を溶かせる。その上で、刑事はもうひとつの執念を実らせた。
遺体を持ち込んだ犯人たちのひとり、阿部の実家のこの時期の水道使用量をあたった。いつもの約3倍になっている。なんのために大量の水を使ったのか。その上で、敷地内の汚水槽をさらった。汚水は風呂場の浴槽からパイプ管を通っていったんこの槽に溜まる。
刑事たちは汚水に潜りこんで顔面の骨らしきものを掬い取った。この骨は劣化が激しくDNAは照合できなかった。だが、ほかに小さなネジを見つけた。顎の骨に埋め込まれる、人工歯根=インプラント手術で使われるネジのようだった。チタン合金で、溶けていない。アバットメントスクリューと呼ばれるネジである。直径4.1ミリ。長さ7ミリ。刑事たちは色めいた。
もしこれがインプラントのネジであれば、土田がここで溶かされた物証になる。ネジに肉体の組織片が付着していないか。だが付着物は微量で、これも劣化が著しく鑑定不能。同型のインプラントネジは全国で599本流通しているのが判明した。ネジに、シリアルナンバーはついていない。
全国の歯科医院一軒一軒をまわり、一本ずつ、そのインプラントは誰に埋められたものか、599人を追跡調査し割り出した。
ビンゴ! 殺された男・土田正道のインプラントにとうとう辿り着いた。これが決め手になった。
〈死体損壊、同遺棄〉で芋づる式に男たちを逮捕。ホストクラブ共同経営者の玄地。従業員の阿部、平。阿部の元妻・篤子。阿部の父親、59歳の秀樹。死体処理を手伝った青野。
※週刊ポスト2013年12月20・27日号