研究所内部の様子。この瞬間も世界に一つだけの成分が、生まれているかもしれない


 この『POs-Ca』には、大阪歯科大学の臨床実験でも使用された、歯科専用品の『POs-Ca F(ポスカ エフ)』があり、失ったリン酸やカルシウムを補うだけでなく、さらに歯を丈夫にするフッ素が含まれている。

「カルシウムとフッ素は、一緒になると沈澱してしまって溶けない組み合わせの成分。でも『POs-Ca』の場合は、リン酸化オリゴ糖がカルシウムを守っているので、フッ素と結びついても、だ液に溶けて機能するんです。フッ素でより丈夫な歯にするガム――ここまでの機能を持って、しかも科学的に効果が実証されているガムは他にないです」(釜阪さん)

 実はこのリン酸化オリゴ糖カルシウムが、北海道産の馬鈴薯のデンプンに多く含まれることはわかったが、当初は抽出できる量が少なく、製品化するには高いハードルがあった。しかしグルコースや異性化糖を製造する企業と協力、副産物としてのリン酸化オリゴ糖カルシウムを回収して、大量生産を可能にしたのだという。こうした新素材を開発し、他社と共同で製品化した商品では、O157、インフルエンザやノロウィルス対策に効果的な抗生物質である、ヨウ素を不織布に練り込んだマスク『快適オフィスAMYCELマスク』(オフィスグリコでの販売)が挙げられる。

 その他にも、世界42か国で販売中のスキンケア成分「α-アルブチン」、アメリカで支持が広がっているスポーツドリンクに使用される「クラスターデキストリン」など、同研究所でしか開発できなかったり、大量生産化を実現できなかった新素材が数々あるという。

 身近なお菓子を製造・販売しているグリコが、世界で活躍する素材を生み出している話は、まるで「近所の○○ちゃんが、世界で活躍する日本人としてTVで紹介されていた」ような、驚きとワクワクを感じる。“すごい!”と畏れ入るよりも、親しみを感じさせたのは、技術的・専門的なことをわかりやすく話してくれたから――だけじゃない。「研究所の理念」についても大上段に構えず、柔らかく語ってくれたのだ。

「『市場で唯一の存在となるために最高水準の科学をする――“The Best Science for the Only One”』が、この研究所の理念です。これは2001年4月に決めたものなので、“オンリーワン”と言っていますが、有名な“世界に一つだけの花”の歌の発売は2003年ですから、あの歌からのマネじゃないですよ(笑い)」(栗木所長)

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